国際情報

捕まる危険あるがハッカーが動く理由「そこに謎があるから」

ソニーがハッカーの標的となり、彼らの知られざる生態について関心が集まっている。いったい、ハッカーとは、どんな人たちなのか? ITに詳しいコラムニストの小田嶋隆氏が解説する。

* * *
ハッキングをしても、ハッカーたちは基本的に儲かったりするわけではない。手に入れた情報を売り飛ばして大儲けする、というケースはほとんどないのだ。

なのに、なぜ捕まる危険を冒してまで他人のパソコンに侵入しようとするかというと、「そこに謎があるから」だ。登山家が「そこに山があるから」と言うのと同じ。

この手の情報はコンピュータの草創期からずっとあった。有名な月刊誌『ラジオライフ』(三才ブックス刊)はその先駆けだ。創刊初期はAMラジオのリスナー情報雑誌だったが、次第に「警察無線の聞き方」などのいわば“裏情報”を載せるようになり、IT関係も扱うようになった。

初期の内容でほほえましいのは、森永チョコボールの「金のエンゼル」「銀のエンゼル」の出現確率を解き明かそうとしたものだ。これがウケた。つまり、そこに謎があれば、解き明かさずにはいられないというメンタリティの持ち主が読んでいる。これはハッカーの基本姿勢に通じる。

ハッカーはアメリカでも日本と同じ。たとえば、アップルの創業者の一人、スティーブ・ジョブズはもともとハッカーだ。

彼が1970年代に長距離電話をタダでかけられるブルーボックスという装置を、後にアップルで共同設立者となるスティーブ・ウォズニアックと共に作って売りさばいたのは有名な話である。

こうした電話の謎の部分や通話のメカニズムに精通したマニアは「フォーン・フリーク」と呼ばれたが、ジョブズはその走りだった。

フォーン・フリークたちはパソコンが登場すると、みなハッカーに転身して、今度はパソコンの謎に挑戦していった。謎やメカニズムに対する好奇心が彼らの根底にある。

そして、ハッカーたちのメンタリティとして根付いているもう一つの要因が、反権力、反資本主義である。

1986年にオランダのアムステルダムで「世界ハッカー会議」があり、「世界ハッカー宣言」が出された。私は当時、雑誌の原稿のためにこれを翻訳したのだが、内容は「どんなものであれ、情報を媒介するツール、ならびにシステムは全面的かつ包括的に無料であらねばならない」というものだった。

彼らにしてみれば、情報の出入り口には必ず権利や権力が絡んでいて、既得権益を持つ者が跋扈していると思っており、それに対する反発がある。いわば、“体制”に対する挑戦なのだ。気分は坂本龍馬なのだろう。

現在の権力や権利の体制が、彼らには幕藩体制に見えるのかもしれない。ソニーのような大企業は、「崩すべき権力」なのである。だから、ハッカーがヒーローのように扱われているのだ。

※SAPIO 2011年7月20日号


関連記事

トピックス

水卜麻美アナ
日テレ・水卜麻美アナ、ごぼう抜きの超スピード出世でも防げないフリー転身 年収2億円超えは確実、俳優夫とのすれ違いを回避できるメリットも
撮影現場で木村拓哉が声を上げた
木村拓哉、ドラマ撮影現場での緊迫事態 行ったり来たりしてスマホで撮影する若者集団に「どうかやめてほしい」と厳しく注意
女性セブン
退職した尾車親方(元大関・琴風)
尾車親方、相撲協会“電撃退職”のウラで何が…「佐渡ヶ嶽理事長」誕生を目指して影響力残す狙いか
週刊ポスト
5月13日、公職選挙法違反の疑いで家宅捜索を受けた黒川邦彦代表(45)と根本良輔幹事長(29)
《つばさの党にガサ入れ》「捕まらないでしょ」黒川敦彦代表らが CIA音頭に続き5股不倫ヤジ…活動家の「逮捕への覚悟」
NEWSポストセブン
5月場所
波乱の5月場所初日、向正面に「溜席の着物美人」の姿が! 本人が語った溜席の観戦マナー「正座で背筋を伸ばして見てもらいたい」
NEWSポストセブン
氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
田中みな実、寝る前のスマホ断ちで「顔のエラの張り出しがなくなった」 睡眠の質が高まり歯ぎしりが軽減された可能性
田中みな実、寝る前のスマホ断ちで「顔のエラの張り出しがなくなった」 睡眠の質が高まり歯ぎしりが軽減された可能性
女性セブン
AKB48の元メンバー・篠田麻里子(ドラマ公式Xより)
【完全復帰へ一直線】不倫妻役の体当たり演技で話題の篠田麻里子 ベージュニットで登場した渋谷の夜
NEWSポストセブン
”うめつば”の愛称で親しまれた梅田直樹さん(41)と益若つばささん(38)
《益若つばさの元夫・梅田直樹の今》恋人とは「お別れしました」本人が語った新生活と「元妻との関係」
NEWSポストセブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン