芸能

時代劇スター里見浩太朗 現在年に3か月サンディエゴで生活

 1950年代、日本映画は絶頂を迎え、東映は年間130本もの映画を制作。全国には7457のスクリーンが存在した。しかしその後の日本映画の凋落はもはや言わずもがな。作家の山藤章一郎氏が、その過程で生まれた奇跡の傑作『十三人の刺客』(工藤栄一監督)にまつわるストーリを追う。

 * * *
 1960年代に入り日本映画はテレビにとって替わられる。東映は、時代劇ではなく、『日本侠客伝』などの「任侠シリーズ」、『仁義なき戦い』に代表される「実録シリーズ」に活路を見出す。その一瞬の隙間に従来の時代劇とは違う奇跡の傑作が生まれた。『十三人の刺客』工藤栄一監督。嵐寛寿郎、里見浩太朗ほか出演。

 今年5月、東映京都撮影所の約1300平方メートルのスタジオが焼亡した。昼下がりから翌朝までの16時間半、赤い炎と黒煙が空に舞い上がった。長い衰退をたどってきた時代劇の息の根を止められた、いわば象徴のできごとである。四条大宮から家並みの軒先をコトコト縫って走る1車両の〈嵐電〉で15分、〈帷子ノ辻〉で降りる。

 平安時代、皇后の葬送がこの辺りにさしかかったとき、棺を覆っていた〈帷子=絹、麻の単衣〉が風に吹かれて天翔けたといわれる地名である。ここに、東映以下、大映、松竹ほかおびただしい数の撮影所、プロダクションが櫛比した。日本のハリウッドと呼ばれた。『鞍馬天狗』の相棒・杉作少年の美空ひばりが、『沓掛時次郎』の錦之介が扮装のままで歩いた。

 だがいま、駅から撮影所に向かう人の姿はまばらである。スタジオの焼け跡を、前にする。雑草の空き地が広がっているわけではなく、解体されたスタジオが駐車場に変じ、名残りの夏の強い陽を照りかえしている。49年前、『十三人の刺客』も、このスタジオで撮られた。

 下級武士、浪人ら13人の暗殺集団が、参勤交替で帰国する将軍の弟一行53騎に襲いかかる映画である。クライマックス延々30分、怒号と悲鳴と絶叫のなか、集団が命をぶつけあう死闘。手持ちカメラがドキュメンタリー手法で追う。画面は激しく揺れ動く。世評は高かった。だが、ヒットはしなかった。のちに、映画、テレビにリメイクされ、今夏、〈大阪新歌舞伎座〉ほかで舞台にもなっている。

 メキシコとの国境に近いサンディエゴは米海軍と軍港の町である。サンディエゴの空港から、西海岸の動脈的フリーウェイ15号線を40分ほど北上する。『十三人の刺客』ほか集団時代劇で輝きを見せた里見浩太朗氏(75)は、1年の3か月ほどをこの地で過ごす。ユーカリの木が茂り、プールのある庭で矍鑠(かくしゃく)としていた。

「工藤栄一さんは、従来の大量生産の時代劇とは違う映画を撮りたかったんです。それであえて白黒で、しかもひとりのスターに頼らず、じっくり撮ったのが『十三人の刺客』でした。映画産業そのものが飽きられ始めた時代です。

 時代劇は、チャンバラの恰好良さと、勧善懲悪。これに何をプラスしたら新しい観客を呼べるか、結局その答えが見つからず、衰退していった。映画館のドアが閉まらない時代があったんですが」

『十三人の刺客』の俳優、製作スタッフを含め、その時代の映画に携わった者の多くは、いまは亡い。里見氏は数少ない証言者である。『十三人の刺客』のその後のリメイク版に疑義を表わす。

「立ち回りのできる俳優がいないんですね。で、人数だけがやたらに多い。そもそも、侍の作法常識、草履の履き方、上への視線、背中を斬られて死ぬのか、頭を割られたのか、ひとつひとつの表現に、武士道が感じられません。私も工藤栄一さんも、立居から走り方までディテールにこだわり、お手本の俳優もいっぱいいて、あの緊張感が生まれたのです」

※週刊ポスト2012年9月14日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

CM露出ランキングで初の1位に輝いた今田美桜(時事通信フォト)
《企業の資料を読み込んで現場に…》今田美桜が綾瀬はるかを抑えて2025年「CM露出タレントランキング」1位に輝いた理由
NEWSポストセブン
亡くなったテスタドさん。現場には花が手向けられていた(本人SNSより)
《足立区11人死傷》「2~3年前にSUVでブロック塀に衝突」証言も…容疑者はなぜ免許を持っていた? 弁護士が解説する「『運転できる能力』と『刑事責任能力』は別物」
NEWSポストセブン
アスレジャー姿で飛行機に乗る際に咎められたそう(サラ・ブレイク・チークさんのXより)
《大きな胸でアスレジャーは禁止なの?》モデルも苦言…飛行機内での“不適切な服装”めぐり物議、米・運輸長官がドレスコードに注意喚起「パジャマの着用はやめないか」
NEWSポストセブン
(左から)小林夢果、川崎春花、阿部未悠(時事通信フォト)
《トリプルボギー不倫の余波》女子ゴルフ「シード権」の顔ぶれが激変も川崎春花がシード落ち…ベテランプロは「この1年は禊ということになるのでしょう」
NEWSポストセブン
吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
小磯の鼻を散策された上皇ご夫妻(2025年10月。読者提供)
美智子さまの大腿骨手術を担当した医師が収賄容疑で逮捕 家のローンは返済中、子供たちは私大医学部へ進学、それでもお金に困っている様子はなく…名医の隠された素顔
女性セブン
英放送局・BBCのスポーツキャスターであるエマ・ルイーズ・ジョーンズ(Instagramより)
《英・BBCキャスターの“穴のあいた恥ずかしい服”投稿》それでも「セクハラに毅然とした態度」で確固たる地位築く
NEWSポストセブン
北朝鮮の金正恩総書記(右)の後継候補とされる娘のジュエ氏(写真/朝鮮通信=時事)
北朝鮮・金正恩氏の後継候補である娘・ジュエ氏、漢字表記「主愛」が改名されている可能性を専門家が指摘 “革命の血統”の後継者として与えられる可能性が高い文字とは
週刊ポスト
箱わなによるクマ捕獲をためらうエリアも(時事通信フォト)
「箱わなで無差別に獲るなんて、クマの命を尊重しないやり方」北海道・知床で唱えられる“クマ保護”の主張 町によって価値観の違いも【揺れる現場ルポ】
週刊ポスト
火災発生後、室内から見たリアルな状況(FBより)
《やっと授かった乳児も犠牲に…》「“家”という名の煉獄に閉じ込められた」九死に一生を得た住民が回想する、絶望の光景【香港マンション火災】
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン