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最新「地下天気図」
地震活動を予測する最新「地下天気図」 京都、紀伊水道に新たな異常発生か
 石川県・能登半島で立て続けに発生した大地震。珠洲市では6月19日に震度6弱、20日にも震度5強の強い揺れが襲い、それ以降も地震が相次いで発生している。 同地域での地震活動の活発化を事前に指摘していたのが、東海大学海洋研究所客員教授・静岡県立大学グローバル地域センター客員教授の長尾年恭氏だ。長尾氏は『週刊ポスト』5月20日号に掲載した「地下天気図」で、能登半島での地震活動の活発化、とりわけ珠洲市での地表の隆起に言及し警鐘を鳴らしていた。「この地域では直近1年半で150回以上の群発地震が発生しており、原因は『地下水』だと考えられています。地下深くから地下10~15km地点まで地下水が上昇し、地面を押し上げることで地震活動に繋がっていると推測できます。この傾向は今後も続き、数年以内にマグニチュード7程度の最大規模の地震が発生する可能性もあります」 地下天気図とは、地殻変動の異常を天気図の低気圧・高気圧に見立ててマップ化したもの。長尾氏が独自開発したアルゴリズム(RTM法)を用いて、気象庁が公表する地震の震源データ(一元化カタログ)を解析し、地震活動が「活発化」した地域を赤色、「静穏化」したエリアを青色で示している。 能登半島での地震を受けて長尾氏が最新マップを作成すると、能登半島と同様の「活発化」の異常が新たに2つのエリアで観測された。 1つ目は京都だ。「京都府亀岡市北東部の山中を中心に群発地震が発生し、M4クラスの小さな地震が増加傾向にあります。京都は『近畿トライアングル』といって数多くの活断層が集中する地域です。直下型地震となるため、能登半島と同じくM5クラスの地震でも震度6を超える強い揺れが生じる可能性が高い」 京都は1596年に慶長伏見地震(推定M7以上)、1830年に京都大地震(M6.5)など、歴史的にも直下型地震で甚大な被害を受けてきた地域だけに、観測された異変に注視したい。 さらに紀伊水道にも活発化の異常が発生。京都とは異なる海溝型の地震となり、南海トラフ地震とも関連する可能性があると長尾氏は指摘する。「2016年には紀伊半島の南東側で、昭和の東南海地震と同じエリアを震源とするM6.5の地震が発生しました。2018年にも紀伊水道で約半年にわたってプレートがゆっくりと動くスロースリップ現象が確認され、今後も警戒が必要です」 南海トラフ地震と関連する地域では、九州地方南部で「静穏化」の異常が観測されている。「宮崎県沖で今年1月22日に発生したM6.6、震度5強の地震は、南海トラフ地震の想定震源域に含まれていたため、複数の専門家が危機感を高めました」 他にも静穏化の異常を示した3地域の注意点はマップ上に記した。 最後に長尾氏が、地下天気図との向き合い方についてこう指摘する。「地下天気図は“地震予知”ではなく、いま地下で起きている異常を示すものです。1995年の兵庫県南部地震以降、地震の観測網は非常に進歩して、地下の色々な異常が分かるようになってきました。唯一分からないのが、いつ地震が起きるかだけなんです。正確な地震予知ができない以上、足下で起きている異常について皆さんが知ることが、防災・減災の第一歩になるのです」【地下天気図とは】 地下で起きている地殻変動の異常を、天気図に模して示した情報で、長尾氏が取締役を務める株式会社DuMA(地下気象研究所)が提供している。今号では6月22日時点での最新情報をもとに作成したマップを掲載した。同社が発行する有料メルマガ(月額220円)の詳細はhttps://www.duma.co.jp/※週刊ポスト2022年7月8・15日号
2022.06.30 11:00
週刊ポスト
エボラ出血熱の脅威とは
エボラは致死率90%…人の社会に出現する動物由来の“未知のウイルス”
 今もその対応に悩まされている新型コロナウイルスだけでなく、人類は様々な感染症とともに生きていかなければならない。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、エボラ出血熱についてお届けする。 * * *「新顔のウイルスは、環境破壊の進んだ地域から浮上している」 これはエボラ出血熱(エボラウイルス感染症)を描いた『ホット・ゾーン』(リチャード・プレストン著 高見浩訳、飛鳥新社)からの一文です。 この百年、世界人口は飛躍的に増加し、熱帯雨林などの野生動物の生息地域の開発も急拡大しています。人が野生動物のエリアに侵入することで動物由来の未知のウイルスに暴露され、人の社会に新型ウイルスが出現するリスクが高まります。そして、地球の一地域で発生したそのようなアウトブレイク(悪疫・感染症の突発的発生)は、グローバル化した高速大量輸送網に便乗して、短期間でパンデミックに発展するのです。 エボラウイルスはおそらくオオコウモリを自然宿主として密林に生息し、それに感染した野生動物の死体や生肉に直接触れたことで人が感染します。 2014年、中央アフリカの“密林地帯の風土病”であったエボラ出血熱が、西アフリカ三国(ギニア・リベリア・シエラレオネ)で急拡大。2016年にWHOによって終息宣言が出されるまでの感染者数は、これまで20回以上のエボラのアウトブレイクの総感染者数をはるかに凌駕したのです。遺体が路上に放置され、医療は崩壊。もはや現地政府では制御できない状態に陥って、国連安全保障理事会は緊急会合を開き、異例とも言える公衆衛生上の安保理決議を採択したのでした。 エボラ出血熱は平均7~10日の潜伏期をおいて、インフルエンザ様症状から嘔吐下痢などの消化器症状が表れることが特徴で、さらに重症化すると吐血、口腔歯肉や消化管などから出血が起こります。実際に出血症状が出るのは全患者の7割で、重篤化した場合に限られますが、内出血、外出血を伴うと意識混濁からショック症状に陥り、死に至る場合が多くなります。 この西アフリカ三国の流行は特に病原性の強いザイール株ウイルスで、未治療の場合には致死率が90%にも上るものでした。さらに近年、整備されたハイウェイを潜伏期間中の感染者が車で移動することで、遠い村から大都市にウイルスが侵入。人口密度や人の流動性の高さから、流行期間も長期に及び、とうとう欧米諸国にもこの凶悪ウイルスが飛び火しました。 これに驚愕した先進諸国は、急遽、エボラワクチンと薬の開発に着手。2015年秋、米国陸軍感染症医学研究所からエボラウイルスの増殖を抑制するとして発表されたのが、現在、新型コロナの治療薬として有名なレムデシビルです。 新型コロナウイルスもコウモリのウイルスと90%の相同性を持っていますが、自然宿主動物は何なのか。また、どうやって人の間で感染伝播できる変異を遂げたのか。不明のままなのです。サル痘もまた、動物から来た感染症でしたね。【プロフィール】岡田晴恵(おかだ・はるえ)/共立薬科大学大学院を修了後、順天堂大学にて医学博士を取得。国立感染症研究所などを経て、現在は白鴎大学教授。専門は感染免疫学、公衆衛生学。イラスト/斉藤ヨーコ※週刊ポスト2022年7月8・15日号
2022.06.29 19:00
週刊ポスト
不祥事を理由に落選したはずなのに、比例で復活されては…(左は塚田一郎氏、右は中川郁子氏/写真=共同通信社)
「不倫路チュー」「USBは穴に…」失言・不祥事で落選しても比例復活するゾンビ議員たち
 元岸田派の吉川赳・衆院議員は本誌・週刊ポストが18歳女子大生との「パパ活飲酒」を報じた後、国会にも会期末まで姿を現わさず、“逃避行”を続けている。説明責任も果たさないまま「離党」で逃げ切ろうとする脳裏には、これまでのゾンビ議員たちの“前例”が浮かぶからだろう。 政界には「みそぎ選挙」という言葉がある。不祥事を起こして雲隠れしていた議員が、選挙前に突然姿を現わして「もう一度国政に」とお詫び行脚を始め、当選すれば「有権者に信任された」と大手を振って表舞台に復帰することだ。 それに対して、有権者はその政治家が、「国会議員にふさわしくない」と判断すれば、選挙で落選させるしかない。 ところが、比例復活当選の制度は有権者の一票の行使を覆してしまう。選挙区の有権者からNOを突きつけられても、比例で復活当選し、「みそぎは済んだ」と平然と国会に出てくる議員が多いのだ。 自民党には、重大な失言や破廉恥な不祥事を起こして有権者から「落選」と審判されながら復活した厚顔な“ゾンビ議員”が大勢いる。 北から列挙しよう。■中川郁子氏(比例北海道ブロック) 亡き夫の中川昭一・元財務相の地盤を継いだが、同僚議員との六本木の繁華街での“不倫路チュー”写真が報じられ、批判を浴びて2017年選挙で落選。昨年の総選挙でも落選したが、比例北海道ブロックの自民党最下位で復活当選、再び議員バッジをつけた。■塚田一郎氏(比例北陸信越ブロック) 麻生太郎・自民党副総裁の元秘書。安倍内閣の国土交通副大臣当時、関門海峡をまたいで時の首相、安倍晋三氏の地元・山口県と副総理だった麻生氏の地元・福岡県を結ぶ巨大事業「下関北九州道路」構想が国の直轄調査に格上げされたことについて、「総理とか副総理が言えないので、私が忖度した」と利益誘導をほのめかす発言が大問題になった。総選挙(新潟1区)は約3万票差で落選し、比例北陸信越ブロックで復活当選した。■務台俊介氏(比例北陸信越ブロック) 復興政務官時代、台風被害の視察で岩手県岩泉町を訪れた際、長靴を履いていなかったため水たまりを同行職員におんぶされて渡り、批判を浴びた。その半年後の政治資金パーティーで、「長靴業界はこれでだいぶもうかった」と発言して政務官を辞任。昨年の総選挙(長野2区)では有権者の批判を浴びて大差で落選しながら、比例北陸信越ブロックの自民党最下位で復活当選して救済された。■桜田義孝氏(比例南関東ブロック) 五輪担当相時代、「(五輪憲章は)話には聞いたことがあるが、自分では読んでいない」、「(USBメモリーは)穴に入れるらしい」など数々の迷言、珍答弁で知られた。被災地議員を「復興以上に大事」と発言し、大臣を辞任した。昨年の総選挙(千葉8区)では5万票以上の大差で落選するも、比例南関東ブロックの自民党最下位で復活当選した。 そのほかにも、女子大生と「愛人契約」を結び、手切れ金を含めて巨額の金を払っていた疑惑が報じられた2世議員の小里泰弘氏(鹿児島3区)は比例九州ブロックの自民党最下位で復活当選。 岸田派の武井俊輔氏は公設秘書が運転する車検切れの車(武井氏も同乗)が六本木で自転車とぶつかったが、そのまま現場を離れて赤信号で止められるまで走ったことから秘書は自動車運転処罰法違反(過失致傷)と道路交通法違反(事故不申告)容疑で書類送検された(嫌疑不十分で不起訴)。総選挙では宮崎1区で落選するも復活当選した。 那覇市の路上で酒に酔って同行女性と口論、止めに入った観光客と暴力沙汰になり、傷害容疑で書類送検された(不起訴)國場幸之助氏(沖縄1区)も、比例で救済された。 ―有権者にとっては、不祥事議員の復活当選は「せっかく落としたはずなのに」と歯ぎしりする思いだったはずだ。 政治ジャーナリストの野上忠興氏が語る。「小選挙区で落選して比例復活した議員は、いわば“落選を執行猶予”され、高額の議員歳費も受け取る。有権者の参政権には、ダメな政治家を落選させる権利もあるはずだが、重複立候補という制度は国民の参政権を形骸化させる問題がある」 自民党を離党した吉川氏が「ほとぼりがさめたら岸田総理が次の選挙で公認してくれる。また比例で当選できる」と考えて逃げ回っているなら、岸田首相も不祥事の連帯責任を負わなければならない。※週刊ポスト2022年7月8・15日号
2022.06.29 07:00
週刊ポスト
有権者に選ばれて当選したわけではない比例復活議員の中には…(時事通信フォト)
パパ活飲酒・吉川氏だけじゃない「比例復活ゾンビ議員」たちの不適切行為
 元岸田派の吉川赳・衆院議員は本誌・週刊ポストが18歳女子大生との「パパ活飲酒」を報じた後、国会にも会期末まで姿を現わさず、“逃避行”を続けている。説明責任も果たさないまま「離党」で逃げ切ろうとする脳裏には、これまでのゾンビ議員たちの“前例”が浮かぶからだろう──。「総理が携帯に電話しても出ないらしい」。官邸関係者からはそんな話が漏れてきた。“人の噂も七十五日。雲隠れして待っていれば、そのうち有権者も忘れてくれる”。そんなメンタルなのだろう。6月30日にはその吉川氏に税金から約290万円の夏のボーナスが支払われる。どこまでも往生際が悪く、有権者への責任など眼中にないようだ。 というのも、吉川氏は選挙区である静岡5区の有権者に選ばれて当選したわけではない。 初当選した2012年総選挙以来、これまで4回の総選挙でいずれも対立候補の細野豪志氏に大差で敗北、1回も選挙区で当選したことがない。昨年の総選挙では当選者との得票差を示す「惜敗率」が48%とダブルスコア以上の票差で落選したにもかかわらず、重複立候補した比例代表で復活当選した。初当選も昨年も、自民党大勝による、いわば「おこぼれ」で国会議員バッジをつけたのだ。 不祥事を起こす議員には、吉川氏のような比例復活議員が目立つ。政治ジャーナリストの野上忠興氏が指摘する。「選挙が楽だと政治家の質が下がる。本来、小選挙区制は1人しか当選できない厳しい選挙制度だが、比例代表への重複立候補を認めたためにおかしなことになった。大政党ではほとんどの候補が重複立候補し、勝利した政党の候補はたとえ小選挙区で落選してもかなりが比例で救済されてしまう。選挙が楽になって“言動を慎まないと有権者の審判で議席を失う”という緊張感が薄くなり、モラルが低い議員が国会に出てくる。 自民党が大勝した2012年総選挙で初当選した大量の議員たちは追い風で苦労知らずに当選を重ね、不祥事が相次いで『魔の2回生』『魔の3回生』などと呼ばれた。彼らがその典型です」 吉川氏も2012年初当選議員の1人。その後、2回落選(うち3回目は繰り上げ当選)を続けたために「魔の2回生」「魔の3回生」に入りそこねた。 この2012年組の自民党の不祥事議員のうち比例復活だったのは、秘書に対する殴る蹴るの暴行で罰金刑を受けた石崎徹氏(自民離党後、昨年の総選挙に日本維新の会から出馬して落選)、国会議員宿舎に中国人の愛人女性を住まわせていた橋本英教氏(故人)、元交際相手の女性から準強制性交容疑で刑事告訴(不起訴処分)されて議員辞職に追い込まれた田畑毅氏などがいる。ちなみに田畑氏の辞職で繰り上げ当選したのが吉川氏だった。※週刊ポスト2022年7月8・15日号
2022.06.28 07:00
週刊ポスト
吉川赳・衆院議員は執拗に“悪あがき”を…(写真は騒動の夜)
パパ活飲酒・吉川議員の“悪あがき” 女子大生のバイト先に押しかけていた
 元岸田派の吉川赳・衆院議員は、本誌・週刊ポストが18歳女子大生との「パパ活飲酒」を報じた後、国会にも会期末まで姿を現わさず、雲隠れを続けている。「吉川氏は女性側に連絡が取れず、年齢などの事実確認ができないので説明会見ができないと釈明したままのようです。このままうやむやにして幕引きを図ろうとしているのでしょう」(政治部記者) 国会議員としての資質が問われる行動について説明責任を果たさない吉川氏だが、裏では“悪あがき”ともとれる行動をとっていた。 本誌・週刊ポスト記者が最初に電話で事実確認を求めた際、「(女子大生・Xさんといたと指摘した日時は)部屋にいましたね、宿舎の」と語っていた吉川氏だが、記者がXさん側にも確認をする旨を伝えると、「ちょっと待ってください。かけ直すんで」と電話を切った。その後の吉川氏の行動は、Xさんを直撃した際に判明する。 Xさんに記者が当日の一部始終を見ていたことを告げたうえで確認すると、現在18歳で吉川氏に勧められて飲酒したこと、「4万円のお小遣いをいただいて」ホテルの部屋で過ごしたことを認めた。 その際、彼女はある不安を漏らしていた。 吉川氏から短時間のうちに尋常ではない回数の(LINE通話の)着信が入ったためXさんが応答するのを躊躇していると、アルバイト先の飲食店に吉川氏とみられる男性が押しかけてきたという。「困ったことがあってどうしてもXさんと連絡を取りたい」と彼女の連絡先を教えるよう要求。店側が断わると、「自分の携帯に電話が欲しいと伝えてくれ」と連絡先を残していった──とアルバイト先から報告がきている、と。こうした吉川氏の行動にXさんは「怖い」と語っていた。 そのタイミングを考えると、吉川氏は記者に「誰のことを言ってるのかわからない」などとはぐらかしながら、直後にXさんに何度もLINE通話をかけ、アルバイト先まで押しかけていたことになる。吉川氏が本誌の取材や記事掲載前に何とかXさんに連絡を取ろうとしていたのは、年齢の確認ではなかったことは想像がつくだろう。 自身に降りかかった疑惑にさえ誠実に対応する気がないのに、それでも国会議員は続けたいというのか。※週刊ポスト2022年7月8・15日号
2022.06.27 07:00
週刊ポスト
これは「政治活動」なのか…(時事通信フォト)
西村康稔・前コロナ相、政治資金で「100万円玉ねぎ」の大問題 “地元へ利益供与”疑惑も
 玉ねぎの高騰が続いている中、国会終盤、議員会館の多くの事務所に全国的に有名なブランドとして知られる淡路島産の玉ねぎが段ボール一箱ずつ“お中元”として配られた。 気前のいい送り主は、淡路島を選挙区(兵庫9区)に抱える西村康稔・前コロナ担当相。現在は自民党選対委員長代行として参院選の指揮をとる立場だ。自民党で「将来の総裁候補」として売り出し中の政治家である。自民党のベテラン秘書が言う。「西村さんの淡路玉ねぎといえば議員会館の名物ですよ。10年以上前から、毎年届けられます。この時期は会館の西村さんの事務所には広い議員応接室がいっぱいになるほど玉ねぎの段ボールが高く積まれる」(自民党議員秘書) だが、今年は自民党だけではなく、野党である日本維新の会の議員にも配られた。 高騰する玉ねぎをもらって喜んでいるかと思いきや、いきなりの贈り物に戸惑っている様子だ。維新関係者が語る。「玉ねぎは西村事務所の若い人が台車に載せて運んで来ました。西村先生の名刺が貼られた段ボール箱に大玉が7個入っていましたが、こんな贈り物は初めてなので、そのままもらっていいのかどうか。他の事務所には、『国会で手心を加えてくれということじゃないか』『間違って届けられたかもしれないから返したほうがいいんじゃないか』と言う人もいました」 この玉ねぎ贈与は法律に抵触する疑いもある。 公選法や政治資金問題に詳しい上脇博之・神戸学院大学教授(憲法学)が指摘する。「基本的に、国会議員が自分の選挙区に寄附を行なうことは公職選挙法で禁じられています。寄附には品物も含まれる。『1票よろしく』『選挙よろしく』と言って渡せば買収、選挙目的ではないお中元であれば買収にはなりませんが、それでは『言わねばセーフ』になってしまうので、事実上の買収を違法な寄附として禁じています。これが『地元寄附の禁止』です。 ややこしいのが自分の選挙区の範囲です。西村代議士は兵庫9区で当選していますが、近畿ブロックにも重複立候補している。次の総選挙でも重複立候補すると見られます。だとすれば、西村代議士は小選挙区内だけでなく、近畿ブロック内への寄附も禁じられていると考えるべきでしょう」 西村氏が玉ねぎを贈った先には、近畿ブロック選出の議員(有権者)も少なくない。 維新のある比例近畿ブロック選出議員の事務所は、この“迷惑な贈り物”に「西村先生とは面識もないし、他の自民党の先生からも(このようなお中元を)いただいたことはありません」と困惑する。 本誌・週刊ポストがこの問題について西村事務所にぶつけると、「仕事でかかわりがあったり、親交のある方のうち、選挙区外の方には、地元のアピールを兼ねて地元県産品を送ることはあります」と回答した。玉ねぎ代だけで100万円 西村氏は政界きっての「贈り物マニア」として知られる。同氏の資金管理団体「総合政策研究会」の政治資金収支報告書を見ると、「政治活動費」の中に多額の「土産代」が計上されている。 コロナの感染拡大が始まった2020年の土産代は54件・総額約450万円、コロナ前の2019年は約825万円、2018年は約895万円と政治活動費の2割近くを占める。支払い先は百貨店や洋菓子店、アクセサリー店など様々だ。 誰に、どんな目的で土産を渡したのかは報告書では一切わからない。 その中で目立つのが地元選挙区の店だ。淡路ビーフの専門店、水産会社、和菓子店などの他に、毎年、梅雨の時期に淡路の農協の子会社で玉ねぎを販売している「アグリアイランド」という会社に115万円(2020年)、111万3000円(2019年)、96万9000円(2018年)と100万円単位の支出があった。 政治資金で玉ねぎを買い、議員に配っているのではないか──。本誌・週刊ポスト記者は淡路に飛んだ。 玉ねぎ農家が多い南あわじ市は収穫の真っ最中。西村氏のポスターが町のあちらこちらに貼られていた。西村氏にとって農家は大票田のようだ。 地元農家の女性は、「政治のことはよくわからないけど、西村さんは淡路の玉ねぎを宣伝してくれる。地元の中学の修学旅行は東京で国会見学、その時に生徒全員が西村さんと握手してもらうので、うちの子や地元の若い人たちはみんな顔を知っていますよ」と語る。 贈答用の玉ねぎについてアグリアイランド社は「担当者不在」と取材に応じなかったが、農協関係者はこう明かした。「西村先生は、以前は農協子会社のアグリアイランドから毎年贈答用の玉ねぎを買ってくれていました。その会社が2年前に販売をやめたので、昨年からは農協が設立した産地直売市場(店舗)から購入してくれます」 西村氏が今年、議員会館で配った玉ねぎの段ボール箱には、確かにアグリアイランドではなく、産地直売市場の名前が印刷されていた。産地直売市場の支配人にも話を聞いた。「(西村氏の)事務所の方が一括で買いに来られて、うちから東京の事務所に発送しました。金額は経理の者が算出しているのでわかりません。うちの前はアグリアイランドさんの扱いなので、前のこともわかりません」 口は重かったが、どうやら西村氏が政治資金で玉ねぎを購入してきたことは間違いなさそうだ。 産地直売市場のホームページでは、淡路玉ねぎの価格は5キロ入りで2000円。2020年は相場がもっと安かった可能性があるが、115万円分だとざっと3トン近くになる。 立憲民主党衆院議員・井坂信彦氏はこう話す。「西村さんの土産代については金額の多さに驚きました。物を贈るとしても、私は年間数万円程度ですし、何人もの人に贈ることもありません。それに、そういったものはポケットマネーで買い、政治資金を使うことはありません。また、地元から何十万円も物を買うこともありません。そんなことをしたら、地元の方への利益供与だとか、買収じゃないかと言われかねませんから」※週刊ポスト2022年7月8・15日号
2022.06.27 07:00
週刊ポスト
こりこり歯応えをふわふわっと包み込む「きくらげ卵炒め」
俳優・升毅が伝授する「きくらげ卵炒め」若かりし劇団員時代の“安ウマ”な思い出
 料理好きの俳優・升毅は、自宅マンションの隣室を借りて、仲間たちと芝居の話をしながら酒が呑める「居酒屋」を月2回ほど開催しているという。そんな升が、『週刊ポスト』の連載『居酒屋ますや』で、劇団員時代の思い出の味を再現。そのおいしさを語る。「若かりし劇団員時代の行きつけが、安くて美味しくてボリュームたっぷりの中華屋さん。そこでこの炒め物を食べたところ気に入り、自分でも作るようになりました。6~9月が旬の生きくらげを使いましたが、乾燥きくらげでもOK。炒めるだけと簡単ですが、食感の違いを楽しめるのが魅力です。卵は先に炒めておき最後に戻し入れると、ふわっふわに仕上がります」(升) 以下で、升のきくらげ卵炒めのレシピも紹介したい。こりこり歯応えをふわふわっと包み込む「きくらげ卵炒め」■材料(2人分)卵…3個ごま油…大さじ2+1きくらげ(生)…1パック(約70g)たまねぎ…1/2コトマト…1コA[塩…1つまみ、こしょう…適宜、チューブのにんにく…小さじ2、チューブのしょうが…小さじ2、鶏ガラスープの素…2つまみ、酒…大さじ1、しょうゆ…小さじ1]■作り方【1】フライパンにごま油大さじ2を強火で熱し、溶き卵を一気に流し入れる。大きめの炒り卵を作り、皿にとる。【2】きくらげは石突きをとり、食べやすい大きさに切る。たまねぎは1cm幅のくし切りに、トマトはヘタを切り落として切り口の白い筋に沿ってくし切りにする。【3】フライパンにごま油大さじ1を熱し、たまねぎ、きくらげを中火で炒め、[A]を順に加える。【4】トマトを加え火が通ったら、(1)の卵を戻し入れ、さっと炒め合わせて完成。【プロフィール】升毅(ます・たけし)/1955年生まれ。東京都出身。近畿大学在学中に演劇を始め、1985年に演劇ユニット「賣名行為」を 結成。1991~2002年は劇団「MOTHER」を主宰した。1995年に上京し、映画『八重子のハミング』(2017年)など出演作多数。YouTubeで動画公開中。https://www.youtube.com/channel/UC-DmGAqCEZMypBwgMncP1tQ撮影/阿部吉泰※週刊ポスト2022年7月1日号
2022.06.26 16:00
週刊ポスト
JRA重賞はGI26勝を含む129勝
蛯名正義氏が考える「返し馬と馬券検討」 記録に現われない記憶を積み重ねる大切さ
 1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏が、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、返し馬と馬券検討についてお届けする。 * * * 前回、返し馬はジョッキーにとって大切な時間だということをお話ししました。テレビの競馬中継では、返し馬をじっくり放送することはないので、これを見られるのは競馬場へ行った人だけの特権です。実際に走る姿が見られるわけだから、間違いなく見たほうがいいと思います。馬券の発売締切まであまり時間がないけれど、いまはコース前にいながらネットで買うこともできますしね。 では、返し馬をどう見ればいいでしょうか。 競馬予想は過去の記録からその馬の傾向を読み取る一方、記録には現われない記憶が重視されるゲームのようなところがあります。なので、その馬の前走の返し馬の様子がどんな感じで、どんな結果だったかを比較していければ、こんなに頼りになるデータはない。大事なお金を賭けて馬券をずっと買い続けていくつもりなら、自分の印象というデータを積み重ねていくことは武器になるでしょう。「あれ、この前勝った時(負けた時)とは違うな」と気づけば、それは馬券検討の重要なファクターになるはずです。 もちろん競馬場にいてもすべての馬の返し馬を見ることはできない。それでもパドックで気になった馬や、ずっと追いかけている馬、もちろん個人的にファンだという馬なら見続けられるはず。競走馬についてはとにかく点ではなく線で見てみること。重賞クラスの馬だけでも見続けてみれば(何らかの形で記録しておけばなおさら)自分だけのデータベースになります。 僕らは勝つために自分が管理する馬を日々じっくり観察し、体調の推移について把握します。ファンはその結果をまずパドックや返し馬で見て、さらにレース結果を踏まえて馬のことを知ればいい。いろいろな厩舎の馬を知って比較することが、ギャンブルでの“勝利”につながるのではないでしょうか。 パドックではちょっと落ち着きがなかったけど、馬場に出たら堂々として、沈み込むようないいフォームで走り出したりするかもしれません。その馬はきっと狭苦しいパドックが好きじゃないのでしょう。ちらちら物見をしたり、尻っぱねをしたりというしぐさの一つ一つに意味がある。馬が何らかのメッセージを出しているということです。 返し馬に入ったところで放馬したり、制御不能で暴走したりすることがありますよね。馬は自分の背中に乗っているジョッキーが、自分より上なのか下なのか見極めることがある。暴走するのはジョッキーを舐めているともいえます。しっかり折り合いがつく馬は「このジョッキーには従わなくてはいけない!」と思っている。 リーディング上位の常連は馬を御する技術に長けていますが、単に上手い下手だけではなく、相性の良し悪しということもあります。それほど結果を出していなかったジョッキーが、それまで不振だった素質馬を従わせ「走るスイッチ」を押したりすることがあるのも競馬です。 ただし調教師になってしみじみ思うのは自分の厩舎の馬を見て「ああ、いい返し馬をしているなあ」と確信しても、なかなか結果にはつながらないものだなということです(泣)。【プロフィール】蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。※週刊ポスト2022年7月1日号
2022.06.25 07:00
週刊ポスト
目を見張った氷川きよしの明治座公演
高田文夫氏 ふっきれたような氷川きよしステージを見て「またいつの日か歌えばいい」
 放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、氷川きよしの明治座公演について綴る。 * * * 氷川きよしの1か月公演(明治座)が熱い。3万円の高価な「プレミアムきよシート」から売れていくという現象で7月4日まで。その後大阪新歌舞伎座、福岡博多座、愛知は御園座で9月中旬まで。そして紅白歌合戦へラストスパートとなる。 一部の芝居は氷川たっての希望で18世紀のフランスにタイムスリップして七変化。中にはジャンヌ・ダルクやマリー・アントワネット風の豪華なドレスなど身にまとい、さすがの私もびっくり目を見張る。 二部はスカッとコンサート。『箱根八里の半次郎』のデビューから応援していたので勝手知ったる互いの性格。小さな差し入れにフランスが舞台ときいていたので「ボンジュールなのか」など下らないメモを入れとくと、何とびっくり一部と二部のあいだの休憩時間に私の留守電に「ボン、ボジュール、ありがとうございます。直接会いたいっすねえ。コロナか」と延々コメントが入っている。 二部のコンサートが始まるといつもの司会者とはずむトーク。氷川曰く「近頃は、女性のタレントさんとかも仲良くて。やっぱりズケズケとハッキリ物を言う人が好きですネ。毎日いろんなお客様がきてくれて、昨日は真矢ミキさん、今日昼の部は倖田來未さんが来てくれまして、今日この夜は残念ながら……高田文夫さんです」だと。そこから延々私を舞台からいじるのだ。「ラジオなんかでもズバズバきついこともハッキリ言うでしょ。だけど根はいい人なんですよ。客席にいます? マイクまわしましょうか。(嫌だとアクションすると)あんな顔して結構シャイなんですよ」 いやあ何かにふっきれたのかのびのびトークが大傑作。「大みそかまで歌い切って来年からはどうするんですか」とMCにふられ「もう23年間も突っ走ってきたんだからいいでしょ。来年からは楽隠居です」には笑った。 またいつの日か歌いたくなったら歌えばいい。我々の100倍以上人を楽しませてきたんだから。声がききたくなったらビデオだってCDだってある。私の部屋の中は“氷川名人会”の有様である。やだねったら、やだね……である。 新橋演舞場では三宅裕司ひきいる吉例「熱海五郎一座」が8回目公演『任侠サーカス~キズナたちの挽歌~』。ここではゲスト出演のA.B.C-Z塚田僚一がバク転やら殺陣やら大活躍(6月26日まで)。漫才のロケット団の定例集会なるライブ、松村邦洋がゲストということもあって亀戸のホールへ。お客の中には30名が間違って亀有に行ってしまったとか。駅前の派出所できいたが、両さんもいないので分からなかったと。イラスト/佐野文二郎※週刊ポスト2022年7月1日号
2022.06.24 20:00
週刊ポスト
作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)
【逆説の日本史】獄中で書かれた「イエス抹殺論」に隠された幸徳秋水の「本音」
 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第九話「大日本帝国の確立III」、「国際連盟への道 最終回」をお届けする(第1345回)。 * * * すでに述べたように、「大逆事件の主犯」とされた幸徳秋水は、その代表作『廿世紀之怪物 帝國主義』において、明治天皇(当時はまだ今上天皇)については鋭く批判するどころか、むしろ賞賛している。「天皇は平和を好み世界の幸福を願っておられ、いわゆる『帝国主義者』ではいらっしゃらないようだ」と述べている。しかし、帝国主義を撲滅しようとするなら当然その実行者の一人である専制君主も排除しなければならないはずで、この態度は矛盾していると言っていい。そこで私は、本連載の第一三四一回(五月二十七日号掲載)で次のように書いた。「これはいったいどうしたことか。この本の目的は帝国主義撲滅を訴えることだから、ほかの部分で無用な摩擦を避けようとしたのか。つまりこれは外交辞令なのか。それとも幸徳の本音なのか。この点については幸徳の別の著作も視野に入れて検討しなければいけないので、とりあえずは措く」 ここで、このとき保留にした問題、つまり「幸徳秋水の本音」を追究してみたい。その解明の大きなヒントになるのが、「幸徳の別の著作」である『基督抹殺論』である。「キリストを抹殺する」というこの物騒なタイトルの著作は、幸徳の事実上の遺作と言ってもいい。なぜ「事実上」なのかと言えば、逮捕前からこれを書き始め獄中で完成させた幸徳は、最後の著作として『死刑の前』を書き始めたからである。 ところが、目次を作り全体を五章構成にし、第一章「死生」を書き終えたところで死刑に処せられてしまった。だから、完成した著作としては『基督抹殺論』が最後のものとなるわけだ。その内容をかいつまんで紹介しよう。例によって原文は現代人にとっていささか難解なので、テキストとして『現代語訳 幸徳秋水の基督抹殺論』(佐藤雅彦訳 鹿砦社刊)を用いる。〈 〉内(引用部分)はこのテキストによることをお断わりしておく。 序文は、〈私は今拘えられて東京監獄の一室にいる〉という文章で始まる。そして神奈川県の湯河原で療養を兼ねて本書の執筆を進めていたが、突然逮捕されて東京に送られ五か月の空しい時が過ぎたが、予審(戦前に行なわれていた、一種の予備裁判)も終わり自由な時間ができたので執筆に取りかかった、と経緯を述べている。そして、獄中という執筆には最悪の環境のなかで病身に鞭打ってまで本作を完成させたのは、決して満足のいくじゅうぶんな出来では無いものの、たぶんこれが自分の最後の著作となる。だからこそ、自分の知る限り誰も明確に述べたことの無い〈史的人物としての基督の存在を否定して、十字架なんぞ生殖器の表示記号を変形させたものにすぎない〉ことを〈結論づけ〉、世に問うために本書を完成させた、と述べている。 つまり、キリスト教の否定もそうだが、そもそもイエスすら歴史上の実在の人物では無いのだと証明するために、幸徳はこれを執筆したというのだ。それゆえにキリスト教批判を飛び越えたイエス抹殺論になるわけである。幸徳はまず、イエスの言行を四人の弟子、マルコ(馬可)、マタイ(馬太)、ルカ、ヨハネ(約翰)が記録した『新約聖書』の四つの福音書に、肝心な点において異同や矛盾があると述べる。〈耶蘇の奇跡的な生誕のことを、馬可および約翰の福音書は記していないし、彼の昇天のことを約翰および馬太の福音書はまるで知らぬかのような書きようなのだ。人類の歴史の最も重要な二大事件であり、ことに基督が神であることを証明する最も貴重な二大事件であるのに、どうしてこれらの福音書は忘れ去ってしまったのか。忘却でないとすれば、なぜ黙って見過ごしているのか〉 多くの日本人は、キリスト教世界でもっとも重要なお祭りをクリスマスだと思っているが、そうでは無い。たしかにクリスマス(降誕祭)は、キリストであるイエスが赤ん坊の形をとってこの世に降りてきたという重大な出来事を記念する祭りである。しかし、キリスト教徒にとってそれ以上に重要なのは、人間社会でしばらく時を過ごしたイエスが、十字架にかけられ一度は殺されたのに見事に復活し、自分は神だと証明したことを記念するイースター(復活祭)だ。 イエスは復活という奇跡を示したからこそ人間では無く神(キリスト)だということになり、それゆえにイエスの言行を記録した四つの福音書は『新約聖書』に収録されたはずだ。それなのに、その教義の根幹をなしている「生誕(降誕)」と「昇天(復活)」が記されていない福音書があるのはどういうことか、と幸徳は鋭く批判しているのである。そして、幸徳は次のように断じる。〈聖書は神話なのだ。小説なのだ。神話小説として読むのはよかろう。玩ぶのはかまわない。研究するのもまた大いに結構だ。けれども基督の伝記としては半文銭の価値もないのだ〉 そして幸徳は、そもそもイエスが歴史上本当に実在したのか、キリスト教世界以外の歴史家の史書を参照し考証している。たとえば、歴史家フラウィウス・ヨセフス(紀元37年~100年頃。幸徳は「フラヴイアス・ジョセフス」と表記)は、名著『ユダヤ戦記』の著者としても有名だが、イエスの死後(復活後)さほど時を経ないうちに生まれたユダヤ人の大歴史家がイエスのことなどまったく記録していない、と述べている。 つまり、キリスト教とは直接関係が無い第三者的な立場の同時代の歴史家で、イエスの実在を証明する記述をしている者は一人もいないということである。そして、〈宗教は必ずしも個人的建設者を必要としない〉〈祖師が宗教を作るよりもむしろ宗教が祖師を作るというのも、決して珍しいことではない〉(=イエスは後から作られた架空の存在である、ということ)と論を進め、キリスト教徒がイエスの「十字架上の死」に基づいて「十字を切る」習慣があることについても、十字の形は古代から使われてきた男性の生殖器などを示す記号であって、〈基督の磔刑に由来すると考えたり、基督教に専有の記号だと考えるのは、大間違いである〉と指摘する。幸徳はキリスト教の言うべき「三位一体論」についても舌鋒鋭く批判しているが、最後の結論はこうだ。〈基督教徒が基督を史的人物とみなし、その伝記を史的事実と信じているのは、迷妄である。虚偽なのだ。迷妄は進歩を妨げ、虚偽は世の中の道義を害する。断じてこれを許すわけにはいかない。その仮面を奪い去り、粉飾の化粧を?ぎ落として、真相実体を暴露し、これを世界の歴史から抹殺し去ることを宣言する〉 以上の「宣言」をもって幸徳はこの『基督抹殺論』を締めくくっている。たしかに熱のこもった著作であることは間違いないのだが、死刑が予想される苛烈な環境において、幸徳はなぜそこまでこの作品に情熱を注いだのか。普通に考えると、どうしても納得がいかない。しかし、ここで当時の状況を頭に置くと見えてくる仮説がある。その状況とは、他ならぬこの著作の現代語訳者佐藤雅彦が「解説」で指摘しているもので、〈天皇をじかに批判することは、当時の言論出版規制のもとでは事実上、不可能であった。(中略)菅野スガは、幸徳秋水のもとで政府批判の刊行物を出版しようとしたが官憲に発禁処分を喰らい、秘密裏に読者に配布して逮捕され、現在の金額で数百万円相当の罰金を科されて(中略)もはや言論では社会変革など無理だと観念して、直接的な暴力革命を志向するようになったほどだった。〉(『現代語訳 幸徳秋水の基督抹殺論』(佐藤雅彦訳 鹿砦社刊) これが、徳冨健次郎が『謀叛論』で指摘していた「政府の遣口」すなわち「網を張っておいて、鳥を追立て、引かかるが最期網をしめる。陥穽を掘っておいて、その方にじりじり追いやって、落ちるとすぐ蓋をする」だろう。一方、佐藤は、こういう状況下において幸徳は、直接天皇を批判した著作を書いても多くの人には絶対に伝わらないので、こういうやり方を取らざるを得なかった。 つまり、この著作の目的は基督の抹殺では無く、「今上天皇・睦仁」の「神格性」の「抹殺」、「天皇教という迷信」の「打破」であった、と考えているわけだ。この考え方自体は佐藤以前にも存在したものだが、的確な見方と言っていいだろう。私もそう思う。幸徳の本音はそれであったに違いない。そして、私はこの件で幸徳の「手本」になった書物があると推察している。唯一「生き残った」著作 それは、江戸時代の『靖献遺言』である。どんな書物かと言えば、次の説明が一番わかりやすいかもしれない。〈江戸前期の思想書。八巻。浅見絅斎(けいさい)著。貞享四年(一六八七)成立。楚の屈原から明の方孝孺までの、節義を失わなかった八人の中国人の遺文に略伝などを付し、日本の忠臣、義士の行状を付載する。当初は日本の人物を中心にする予定であったが、幕藩体制を考慮して中国のそれに換えた。自説を何ら付していないが、尊皇思想の展開に影響を与えた。(以下略)〉(『日本国語大辞典』小学館刊)「尊皇思想の展開に影響を与えた」とあるが、じつはそんな生易しいものでは無かった。いまでは忘れ去られているが、これはかつて「明治維新を招来した書物」などと評されたこともあったのである。幕末の尊皇思想を研究した山本七平は、その著『現人神の創作者たち』(文藝春秋刊)で、この書物のことを「維新の志士といわれた人びとにとって、この『靖献遺言』は文字通りの「聖書」であった。たとえば頼三樹三郎のように『靖献遺言でこりかたまった男』と評されることは、最大の賛辞であった」と述べている。 私の愛読者なら『靖献遺言』は「右翼」で、幸徳秋水のほうはバリバリの「左翼」だから両者はまったく関係無い、とは思わないだろう。では、どこが幸徳の手本なのか。 明治時代に「天皇をじかに批判することは、当時の言論出版規制のもとでは事実上、不可能」であったように、近代以後のような出版体制の無かった江戸時代においては、「将軍をじかに批判することは絶対に不可能」であった。しかし、朱子学者としての絅斎が望んだのは、「覇者にすぎない徳川将軍家は、日本の統治を真の王者である天皇家に返すべきだ」ということだ。 たしかに、幕末このことは大政奉還という形で実現したが、絅斎の生きていた江戸初期にはそんなことを口にしただけで文字通り首が飛ぶ。まともな出版も無い状況下で自分の想いを後世に伝えるにはどうすればいいか? おわかりだろう。だから「中国人の話」にしたのである。この書物には「幕府を倒せ」という主張も、「倒すべきだ」という意見も載せられてはいない。それゆえ江戸中期以降は出版も許されたのだが、この書物を読めば誰でも痛切に感じるのは、「覇者は倒して、王者が政権の主になるべき」ということだ。あくまで「中国の話」なのだが、それを日本に当てはめれば当然「倒幕」が正しい、ということになる。だから「志士の聖書」であり、それに「こりかたまった男」が尊敬されたのだ。 たしかに、『基督抹殺論』と『靖献遺言』では、めざす体制は正反対だ。しかし、まるで写真の陽画と陰画のように両者には共通点がある。博覧強記で古今の文献に通じ明治人でもあった幸徳は、当然この書物の存在と、厳しい「検閲」をいかにして潜り抜けたかを知っていただろう。だからその方法論に学び、「天皇抹殺論」を「基督抹殺論」に替え、いずれ天皇制打倒に立ち上がる「志士」が多数出現することを願っていたのではないか。 そして、もし幸徳の本音がそうだったとしたら、その目論見は成功したとは言えない。たしかに、この『基督抹殺論』は幸徳の著作がすべて「禁書」となった戦前においても唯一「生き残った」著作となった。しかし、皮肉にも幸徳が打倒をめざした国家主義者たちが、日本の国体を強化しキリスト教を批判するための道具として、これを使った。「あの幸徳ですら基督教は迷妄だと批判していた」という形で、だ。幸徳にとっては不本意なことになったわけである。 では、幸徳の目論見はなぜうまくいかなかったのだろうか? 簡単に言えば、日本の民主主義確立にとって天皇の存在は欠かせなかったという歴史的事実を、幸徳は気づいていなかったか、故意に無視したか、いずれにせよ軽視したからだろう。天皇のカリスマ性を利用しなければ四民平等も実現しなかった。それが冷厳な歴史的事実である。 いずれにせよ、そのカリスマを持った明治天皇の死によって明治時代は終わり、大正という新しい時代の幕が上がったのである。(「国際連盟への道」編・完、第1346回に続く)※週刊ポスト2022年7月1日号
2022.06.24 16:00
週刊ポスト
想定外の流行を見せているサル痘とは?
サル痘が想定外の拡大、ペットから感染、ヒトからヒトにも 種痘ワクチンに予防効果
 今もその対応に悩まされている新型コロナウイルスだけでなく、人類は様々な感染症とともに生きていかなければならない。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、「サル痘」の流行と検疫の重要性についてお届けする。 * * * いま話題になっている「サル痘」は、人の天然痘ウイルスと同じオルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスの感染によって起こる感染症です。主にアフリカ中央部や西部の熱帯林でみられる風土病でしたが、今年5月に入ってから欧米を中心に29か国に感染が広がり、想定外の国や地域で患者が多発していることから問題となっているのです(6月8日現在)。 サル痘の名は、1958年にポリオワクチン製造のために世界各国から集められた霊長類の施設のカニクイザルから発見されたことに由来します。もともとは自然界ではリスやネズミなどのげっ歯類がもっていると考えられています。ですから、その動物からヒトへの感染経路としては、リスやネズミなどの感染動物に咬まれる、またはその血液や体液、発疹の皮膚病変に触れるなどがあります。 ヒトからヒトに感染することは稀とされてきましたが、濃厚接触による感染やリネン類を介した医療従事者の感染の報告があり、患者からの飛沫感染や体液・皮膚病変(発疹部位)による接触感染とされています。 このようにサル痘は新型コロナウイルスのような呼吸器感染症ではなく、発疹などの皮膚病変を中心とした接触感染と一部の飛沫感染で、感染力は強くはありません。ですから、パンデミックを起こすようなウイルスではないと考えられます。 約1~2週間の潜伏期の後に発熱、頭痛、リンパ節の腫れなどが続き、顔面から体幹部に発疹が広がります。発疹は膨れて水疱となり、やがて膿疱となって瘡蓋となりますが、治癒するまでに2~4週間を要します。幼児や妊婦、免疫が低下している人は重症化することがあります。 治療は対症療法となります。効果が見込まれる抗ウイルス薬がありますが、日本国内では流通していません。 天然痘の種痘ワクチンは、サル痘にも予防効果があります。天然痘が根絶に向かったことから、現在の日本では接種されていませんが、生物兵器のテロ対策として、国内で生産、備蓄されています。いざとなればそのワクチンが転用して使われるのでしょう。欧米各国もサル痘患者が1000人を超える中、急遽、この種痘ワクチンの確保や接種体制の整備に乗り出しています。 過去には、アフリカからアメリカにペットとして輸入された小動物を通じてサル痘ウイルスがプレーリードッグに感染、プレーリードッグからヒトに感染してサル痘になったことがありました。検疫は渡航者だけではなく、動物や食料品の輸入などでも感染症の防波堤として大きな役割を果たしています。人獣共通感染症はペットからヒトに感染することもあるので、動物検疫の重要性を痛感しますね。感染症の立場からも動物の密輸はもってのほかなのです。【プロフィール】岡田晴恵(おかだ・はるえ)/共立薬科大学大学院を修了後、順天堂大学にて医学博士を取得。国立感染症研究所などを経て、現在は白鴎大学教授。専門は感染免疫学、公衆衛生学。イラスト/斉藤ヨーコ※週刊ポスト2022年7月1日号
2022.06.22 11:00
週刊ポスト
活躍が期待されるTBS日比麻音子アナ
TBS日比麻音子アナ スタッフ受け抜群、次期エース候補の「酒豪伝説」
 TBSの日比麻音子アナ(28)の露出増が止まらない。報道・情報番組の『Nスタ』や『ひるおび』、バラエティ番組の『オオカミ少年』などの担当番組に加え、昨年10月からは『王様のブランチ』の進行役にも抜擢。 TBS開局70周年記念として上演される肝いりの舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』(7月8日開幕)の製作発表が5月に行なわれた際には、ローブとマフラーをまとったコスプレでMCを務めて、話題をさらった。TBS関係者が語る。「吉田明世アナ(34)や宇垣美里アナ(31)をはじめ、TBSはここ数年女性アナの退社が多く、若手から中堅まで人材不足が著しい。そうしたなかで局の期待を一身に背負っているのが日比アナ。今や見ない日がないほどです。幅広い番組をこなせる実力だけでなく、老若男女からウケる愛されキャラで、視聴者だけでなくスタッフ受けも抜群に良い」 日比アナは青山学院大学出身で、在学時代はミスコンテストで準ミスにも選ばれた。 才色兼備の日比アナが重宝されるのは、ある意外な一面も関係しているという。別のTBS関係者が語る。「TBSイチと言われるほどの酒豪なんです。飲みの場に日比アナを連れて行くと、周囲が驚くほどのペースでビールのグラスを空けていく。しかも座持ちが良いと評判です。過去にラジオ番組で、酒に酔った最終形態を表わすという“バキ酔い”なる独特の言葉を説明したこともある。裏表がなくノリも良いから、スタッフが使いたがる」 本誌・週刊ポストも4月下旬、赤坂の安居酒屋でビール片手に女子会に興じる日比アナを目撃した。 次期エースとしての階段を順調に上る日比アナだが、こんな懸念もあるという。女性アナウンサーに詳しい芸能ライターの島本拓氏が語る。「今は多様な番組に出させているTBSですが、一方で『将来はバラエティかそれとも報道かどの路線でいかせるか』という悩みも上層部は抱えているようです。日比アナを看板アナに成長させられるかどうかは、今後のTBSの打ち出し方次第でしょう」 成長の日々が続く。※週刊ポスト2022年7月1日号
2022.06.22 07:00
週刊ポスト
和久田麻由子アナがいよいよ見納め?
NHK和久田麻由子アナ「レギュラーゼロ」背景に大手商社に勤務する夫の海外赴任か
 夏頃と言われる出産を控え、NHKの「絶対的エース」和久田麻由子アナ(33)がいよいよ見納めになりそうだ。『紅白歌合戦』や東京五輪の開会式のMCなど、看板番組を担当してきた和久田アナ。近年は夜の報道番組『ニュースウオッチ9』に出演していたが4月に降板、まさかの「レギュラーゼロ」となった。同時に101人のアナウンサーが大異動となったが、スポーツ紙で妊娠が報じられたこともあり、これは和久田アナが産休に入ることを見越した“特別シフト”ともみられている。「わくまゆロス」という言葉まで生まれたが、彼女を取り巻く環境はさらに変わっていく可能性もありそうだ。大手総合商社の40代社員が言う。「和久田アナが2019年2月に結婚した夫はウチの社員です。学生時代は早稲田大学の競走部で箱根駅伝のランナーとして鳴らして、“2代目・山の神”こと柏原竜二さん(32)と5区で競った選手です。 うちは20代で2~3年、30代の中頃で5年ほど海外に赴任するケースが多い。人事異動が盛んで月に2回、1日と15日付で公表されていて、部長未満の役職ならいつでも異動の可能性がある。彼はすでに一度、短期間の海外赴任をしていますが、その際は単身赴任だったようです。最近、奥さんが妊娠したというニュースが大々的に報じられたので、周りは『次の海外駐在が決まったら今度は一緒に赴任するのかな?』と噂していますよ」 これまで女性アナウンサーにとって「夫の海外赴任」は、キャリアの大きな節目になってきた。女子アナウォッチャーの丸山大次郎氏が語る。「局アナが海外赴任する夫についていく選択をした場合、退社する事例が多い。フジテレビの中野美奈子アナ(42)や大坪千夏アナ(56)、TBSの竹内香苗アナ(43)も会社を辞めています。 例外は和久田アナと同じNHKの青山祐子アナ(49)です。在局したまま海外に移住して産休を取りました。ただ一度も地上波出演がないまま2019年に退職。後年、『海外に住みながら現地情報を伝えるなどの働き方を提案したが、局と折り合わなかった』と語っています。海外生活しながら局アナを続けるのは現実的ではないと思います」 国民的アナウンサーの動向から目が離せない。※週刊ポスト2022年7月1日号
2022.06.21 07:00
週刊ポスト
微妙な距離感を保つふたり
パパ活・吉川赳議員、辞職せず 自民の悪しき伝統“こっそり復党”は繰り返されるのか
 本誌・週刊ポストで〈パパ活「飲酒」現場〉を報じられた“岸田派のホープ“吉川赳・衆院議員。18歳の女子大生に汐留の焼き肉店で酒を飲ませ、お台場の高級ホテルでともに過ごし、「4万円のお小遣いをいただいた」という彼女の証言も含めて当夜の一部始終を詳報すると、永田町には激震が走った。 吉川氏は自民離党を表明した後、雲隠れを続けており、議員辞職も会見で説明をする意向もないと報じられている。吉川氏をかばったことで、岸田首相の足元には火がついている。「吉川は選挙に弱いから、離党して自民党の看板がなくなった以上、もう将来はない。党内はみんなそれをわかっている。それなのに岸田総理がクビを切れなければ、党内の批判は総理に向かう。総理も参院選の議席を減らしてまで吉川と心中するわけにはいかないだろう」(自民党ベテラン議員)自民党の“悪しき伝統” 吉川氏が逃げ回ったのは、自民党には不祥事議員を表向き「離党」させて批判をかわし、ほとぼりが冷めた頃にこっそり復党させて救済する“悪しき伝統”があるからだ。 最近ではコロナ禍の「銀座クラブ通い」を批判された松本純氏、田野瀬太道氏、大塚高司氏の“銀座3兄弟”のケースがある。3人は昨年2月に役職辞任のうえ自民党を離党。無派閥だった大塚氏は昨年10月の総選挙出馬を断念したものの、残る2人は無所属で出馬し、森山派の田野瀬氏は当選して自民党から追加公認を受けて復党した。 麻生太郎・副総裁の側近として知られる松本氏は落選して議員バッジを失ったが、選挙からわずか2週間後に自民復党が認められ、非議員ながら「自民党副総裁特別補佐」に就任している。“派閥の加護があれば、一度離党しても面倒を見てくれる”──現職総理という強力な後ろ盾を持つ吉川氏がそう計算したとしても不思議ではない。 政治ジャーナリストの野上忠興氏が指摘する。「現在の国会議員の多くは政党の力で当選しており、無所属でも勝てるほど有権者の強い支持を受ける政治家は極めて少ない。だから不祥事を起こした自民党の議員は離党しても派閥や実力者に頼って議席を守ってもらおうとするし、野党で離党した議員は党を渡り歩いてでも任期いっぱい議員を務めようとする者が多い。いずれも国会議員として選んでくれた有権者の負託に応えるために議席にしがみついているのではなく、高額な議員歳費と議員特権を手放したくないからでしょう」 そんな議員は必要ないのだ。※週刊ポスト2022年7月1日号
2022.06.20 07:00
週刊ポスト
維新の石井章・参議院議員による発言が…(写真/共同通信社)
維新、議員による差別的な問題発言相次ぐ 議員・候補者の“量”重視で“質”に問題か
 7月10日に投開票が決まった参院選での大躍進が予想されていた日本維新の会に、逆風が吹いている。維新の国会議員団両院議員総会長である石井章・参議院議員が、差別を助長するような問題発言をしていたことが分かったのだ。 発言があったのは6月5日、千葉県柏市の柏駅前で行なわれた維新の街頭演説でのことだった。千葉選挙区から出馬予定の新人候補、佐野正人・現習志野市議会議員に続いて登壇した石井氏は、「私は、生まれは隣の取手市なんですけども、(中略)おじいちゃんおばあちゃんが住んでいた関係で夏休み、冬休みはよく(柏に)来てました」との掴みから、維新による教育改革の成果をアピールし始めた。 その流れで維新元代表の橋下徹氏の名前を挙げた石井氏は、橋下氏の出身地について「差別を受ける地区」「ろくすっぽ勉強もできる環境ではない」などと発言、両親の仕事についても言及した。発言は「しかし、努力が実ってですね、現職で大学に入って、司法試験に受かって」と続いた。 前後の文脈から考えれば橋下氏の立身出世を強調する意図の発言だったことは分かるが、維新関係者の間では「問題発言ではないか」と不安の声が広がった。石井発言は差別を助長する内容であることから詳細には触れないが、一浪している橋下氏を現役合格とするなど明確な事実誤認も含まれており、認識の甘さとともに街頭演説という公の場にふさわしくないものであると考えられた。 しかし、この時点で石井氏に直接そのことを指摘する声はなかったという。石井氏の後は維新副代表の吉村洋文・大阪府知事も応援演説を行ない、その模様は維新の会の公式YouTubeチャンネルで動画配信された。 その動画をもとに発言の詳細について部落解放同盟に見解を尋ねると、問題のある内容であるとの指摘があった。「予断と偏見で出身地について話しており、差別を助長する内容となっています。仮に橋下さんが了承していたとしても、許される内容ではない差別発言と考えます」(部落解放同盟中央本部) 橋下氏に見解を聞くと、事務所の担当者を通じて「この演説については把握しておりませんでした」とした上で、「僕を評価してくれようとする文脈なのでしょうが、内容には事実誤認も多く、また差別的な表現もあります。表現には十分気を付けていただきたいと思います」と回答があった。 ところが、維新は本誌・週刊ポストの取材に対し、「石井章議員の発言については、石井章事務所に直接ご質問ください」と回答。石井事務所にも差別発言についての見解を問うたが、「担当者には質問を渡しているが外出中」との理由で締め切りまでに回答は得られなかった。 木で鼻をくくったような対応だったが、その一方で、YouTubeで公開されていた動画は本誌が取材した直後に閲覧ができなくなった。現在は閲覧範囲が限定されており、維新の公式YouTubeチャンネルからは削除されている。 6月15日に本誌がニュースサイト『NEWSポストセブン』で第一報を報じると、「批判の高まり次第では、次期参院選への出馬も見直しを検討せざるを得ない」(維新関係者)状況だという。党内では責める人がいない 石井氏をめぐっては、今年5月、参院選栃木選挙区に維新が擁立した新人女性候補について「顔で選んでくれれば一番を取るのは決まっている」と発言し、女性差別だとして大きな批判が起こった。党は厳重注意したものの、その後も茨城県牛久市の演説で新人女性について「見た通りの人で、顔だけ見ると」と言いかけた後、「あまり顔のことを言うとたたかれるから言えない」と続けたという(東京新聞6月5日付)。 何も懲りていなかったのだ。 石井氏は取手市議から2009年衆院選に民主党比例代表で出馬し初当選。その後、国民の生活が第一、日本未来の党と転籍を繰り返し、維新が初めて候補者を立てた2013年参院選で維新候補として出馬するも落選。2016年の参院選で再び国政に返り咲いた苦労人である。 石井氏について維新関係者はこう言う。「65歳の石井さんは永田町では中堅ですが、若手の多い維新の中では面倒見の良さから『人のいいおじさん』として人望を集めています。政策立案能力があるわけではないけど、1年生議員をよくご飯に誘っていて、親しみやすい人柄だから、嫌っている人を見たことがない。『顔で選んでくれれば一番』発言も、党内では彼をそんなに責める人はおらず、まぁしょうがないか、というぐらいの受け止め方です。身内、幹部には甘い党なんです」 だが、今回の発言は“しょうがない”で済まされるはずがない。長く差別問題について取材してきたジャーナリストの大谷昭宏氏は言う。「石井氏の発言は言語道断です。石井氏は差別の問題を取り上げて橋下氏を持ち上げ、『自分は差別問題に理解がある』と示したかったのかもしれませんが、この発言は差別を助長するものでしかありません。差別問題についての知識も理解もないまま、安易にその問題に触れ、結果として差別を助長、拡散させることなどあってはなりません。 さらに、この街頭演説の動画を維新がYouTubeで配信していたとすれば、組織として差別問題についての理解が浅かったと言わざるを得ないでしょう」過去にも差別発言 維新の会が差別発言をめぐって問題になったのはこれが初めてではない。 2019年5月、前回の参院選に公認候補として出馬が予定されていたフリーアナウンサーの長谷川豊氏が、講演会で近世の被差別階層とされた人たちについて「士農工商の下に、人間以下の存在がいる」と言及、「当然、乱暴なども働く」「プロなんだから、犯罪の」などと述べた。 これを問題視した部落解放同盟中央本部は維新に抗議文を提出。長谷川氏は謝罪の上、公認を辞退し、維新は今後、党規約に人権綱領を盛り込むなどの対策を講じるとした。その後、「人権侵害に対して解決に向けた行動を促進」という旨の文言が盛り込まれた。 しかしそれから3年、またもや同じような問題が起きたのだ。後房雄・愛知大学地域政策学部教授は言う。「過去にも問題が起きていたにもかかわらず、依然として維新は政党として人権意識が低いままだったということでしょう。確かに維新は、統治機構改革や競争力向上といった政策において成果を挙げています。しかし一方で大阪の地方政党から本格的な国政政党に脱皮しようとするタイミングで、政党としての意識の低さが露呈してしまった。 今の維新を見ていると、多くの候補者を擁立し、“量”を増やす取り組みを進めていますが、一方で“質”はどうなのか。党の国会議員、候補者の育成過程が杜撰になっているとすれば、これは党としての責任問題です。この差別発言は石井氏個人の問題ではなく、組織としての維新の責任が問われていることを、党として理解すべきです」 石井氏が名前を挙げた元代表の橋下氏は、差別報道と戦った経験がある。2012年には橋下氏の出自や父親について書かれた『週刊朝日』の記事をめぐり、記者会見で「身分制、血脈主義を肯定するような内容で一線を越えている」「実の父親に育てられた記憶はなく、僕の人生に関係ない。こういうことを認めたら僕の子供や孫にも影響する」と強く抗議、出版元の朝日新聞出版は謝罪する事態となった。 その橋下氏をめぐり、今度は身内だった維新から差別発言が飛び出すことになるとは。橋下氏の盟友である現代表の松井一郎・大阪市長、そして橋下氏の後継者で次代の維新を担う副代表の吉村氏はこの問題にどう対処するのか。 今度もうやむやにするようであれば、維新が真の国政政党として脱皮する機会はなくなるだろう。※週刊ポスト2022年7月1日号
2022.06.20 07:00
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