お酒を外で飲まず自宅で楽しむ「家呑み」がブームだという。背景にあるのは意外にも出生率の上昇だった。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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ここ数年「静かなブーム」と言われてきた「家呑み」が今年、大ブレイクしている。
今年行われた、アサヒホールディングスの「『家飲み』に関する意識調査」では全体の半分が「週4日以上」のペースで「家呑み」を楽しんでいるという。また、ライフメディアのリサーチバンクの調査では「1年前に比べて、家飲みの頻度が上がった」という回答が21%にものぼった。大手コンビニのセブンイレブンは、今年、全店の6割以上に当たる9500店で酒類の売り場を5割拡大。全国の書店でもこの10月だけで「家呑み」「家飲み」がタイトルに冠された書籍が3冊発売された。
まさに「家呑み」大ブレイクである。今年、これほどのブレイクに至った理由には「節約型ライフスタイル」の定着に加えて「家呑み女子」の増加、そして「少子化に歯止めがかかった」ことなどが考えられる。
厚生労働省の全国調査によると、20代女性の飲酒率は2003年から2008年の間に10ポイント上昇して、90.4%となり、この時点で男性の83.5%を抜いた。この数字からも「家呑み」人気に、「飲酒系女子」が一役買っていることが伺える。
加えて、出生率上昇が「家呑み」ブームを後押しする。日本の出生率は、2005年に1.26で底を打った後は、微増ながらも右肩上がりで2011年には1.39にまで回復した。これまで共働きで「外呑み」「外メシ」を享受してきた夫婦が、育児環境に置かれるようになった。
授乳中の女性からは「早く(授乳期間を終えて)、お酒飲みた~い」という声も聞こえてくる。だが、授乳期間を終えても、子どもを連れての外食となると、店選びも限られる。そこで「家呑み」という選択肢が浮上してくる。しかも前述のようなレシピ本や「中食」が家庭に浸透したこともあり、家呑みにおける、つまみのクオリティはこの10年ほどで飛躍的に向上した。
レシピ本『家呑み道場』内で「大人の家呑み力検定」を展開する、大人力&検定系コラムニスト&給食系男子の石原壮一郎氏は、「家呑み」の社会的影響をこう語る。
「『家呑み』ブームは少子化対策に大変有効なトレンドと考えられます。現代の若者には『外飲み』でほろ酔いになり、ホテルに誘うという段取りが苦手な人も多い。しかし『家呑み』ならば、『おいしいレシピ覚えたから、家呑みにおいでよ』と、あたかも下心がないかのように誘うことができる。誘われる側にも抵抗感が少なく、『家呑みなら行こうかな』という言い訳も用意できます。
その上ほろ酔い気分で、隣に手を伸ばせば、なし崩し的に次の段階に進むことができる。下心がある人には、ホテル代もかからず、二重の意味で安上がり。万が一、下心がなかったとしても、気楽に振る舞えるので、人間関係の構築も無理なくできる。『家呑み道場』に掲載されているような、手軽なおつまみレシピを覚えておくことは、一石二鳥どころか一石五鳥にも六鳥にもなる、大人のたしなみと言えるでしょう」
この8月には「日本ホームパーティ協会」という社団法人も設立され、10月には神戸の製菓会社が「第1回 家飲み川柳」という川柳賞をスタートさせた。大阪では「立ち呑み 家呑み」という店名の、もはや家呑みなのか、外飲みなのか、立ち呑みなのかわからないバーも人気を博しているという。
「家呑み」というスタイルは、もはやブームを超え、「家呑み文化」という新たな文化を構築するステージに差しかかっていると言えそうだ。