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散骨は遺骨ではなく遺灰 事件か!?という誤解を生まぬマナー

 みうらじゅん氏は、1958年京都生まれ。イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャン、ラジオDJなど幅広いジャンルで活躍。1997年「マイブーム」で流行語大賞受賞。仏教への造詣が深く、『見仏記』『マイ仏教』などの著書もある同氏が、“散骨”の海洋葬に参加した。

 * * *
 散骨をするためのヨットが東京湾を静かに進んでいる。航行中、一番感心したのは、その安全面への気配り。船長は常に、助手に確認して、「5時の方向にパワーボート……11時の方向に漁船……」と周りの船舶に細心の注意を払いながら舵を握っている。

 よく東京湾の釣り船に乗る釣り好きに聞いたところ、釣り船でそこまで配慮した航行をする船はほとんどないそうだ。これには頭が下がった。

 それにしてもヨットは気持ちがいい。初めて乗ったが、ユックリとした進み具合は贅沢気分を味わえる。以前、沖縄の波照間島で、ガンガン波を切って進むモーターボートに乗った時は、あまりの揺れに船酔いしてしまい、たまらなく気持ち悪くなってしまったが、今回はそんな徴候はまるでない。

 船上の遺族の人たちからも、マリーナにいた時と同じように、葬儀にありがちな悲壮感はまったく感じられない。むしろ、故人と最後のクルージングを楽しんでいるような雰囲気すらある。

 1時間近く走っただろうか。船長がGPSで、船の現在地の緯度と経度を正確に計って、船を停めた。ここで最初の散骨が行なわれるらしい。

 紙に包まれた「遺骨」ではなく、「遺灰」が、船のキャビンからデッキへと運ばれてきた。そう、散骨されるのは遺骨ではなくパウダー状になった遺灰なのだ。火葬場で骨になったものを「風」が、責任をもって事前に粉骨化してくれるという。

 これは「骨」のまま散骨したものが、万一海岸などに流れついて、「事件か!?」という誤解を生まないためのマナーのひとつだろう。

 粉骨化は「粉砕機」という、名前はちょっと荒っぽい、ミキサーのような機械で行なわれるらしいが、遺族が自分で行なうことも可能だという。乳鉢とすりこぎを使えば、遺骨は一度焼かれてもろくなっているので、それほどの重労働ではない。

※週刊ポスト2012年11月9日号

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