日々の暮らしのなかで厄介なのがお風呂場に発生するカビ。そのカビの発生を抑える『ルック おふろの防カビ くん煙剤』(ライオン)が大掃除シーズンを前に大人気だ。すべてはお風呂掃除の常識を変えたい――という開発者の思いから始まった。
毎日欠かさず掃除をしても、どこからともなく生えてくるお風呂の黒カビ――。放っておけば、ますます増殖し、人によってはアレルギー性の病気を引き起こす危険もある。塩素系のカビ取り剤を使えばいったんは除去できるが、完全に抑えることはできない。しかも塩素系の薬剤は、体に直に触れないように慎重な作業が求められるから面倒だ。
カビが発生する要因は3つある。温度(20~30℃)、湿度(70%以上)、そして栄養源。「栄養源とは、人間の垢や石けんカスなどの汚れをさし、カビにとってはこれらがすべて揃うお風呂場は天国のような場所なのです」と語るのは、ライオンで住宅用洗剤などの商品企画を担当する宮川孝一(39)。
宮川は一般の25家庭のお風呂のカビ調査に乗り出した。調査に協力してくれた家庭の浴槽や床、壁など隅々をチェック。手の届きにくい天井も調査した。すると意外な事実がわかった。
「天井には目には見えなくてもカビが存在して、カビ胞子を作っていたんです。検出率はなんと84%。床の検出率80%より高かったのです」
この胞子は時間が経つと浴室内全体に落ちてきて汚染を広げていることもわかった。天井のカビ胞子を根絶しなければ、いくら壁や床を掃除しても、またカビは発生する。「逆にいえば天井をきれいに掃除すれば、カビの発生を抑えることができるわけです。しかし一般家庭では天井まで掃除することはほとんどない。これを簡単に解決する方法が成功のカギになると踏みました」
宮川らがその時注目したのが銀イオン。チーム内でのミーティング中に偶然出たアイデアだ。銀イオンには除菌効果の成分が含まれ、すでにキッチンなどの除菌スプレーに使用されていた。安全性が高く、口にしても影響はない。
だが、銀は気化しないため、くん煙剤向きではないという難点があった。この銀に再び注目するきっかけとなったのは、ミーティングの際、研究員から発せられたある一言だった。「銀は気化はしないが、気泡のように小さい微粒子にすれば、くん煙に乗せて飛ばすことができるのでは」
その場にいた全員が瞬時に顔を上げた。「連日のミーティングは誰でも自由に発言できる雰囲気を大事にしています。何気ない一言に鉱脈があったりしますから」
実際に試したら、銀の粒子はくん煙に乗せて飛ばせることがわかった。また、粒子が大きすぎると飛び難くなるし、小さすぎると人の口から体内に入りやすくなることもわかった。試行錯誤の結果、銀の粒子の大きさは2.5マイクロメートルに設定された。
『ルック おふろ防カビ くん煙剤』は、こうして誕生した。カビを除去する商品ではなく、カビの発生自体を抑える初めての商品だ。一度カビ取りの作業を行なった後に使えば、効果はさらに高い。
「1~2か月おきに使って欲しい。これでそのカビの発生は抑えられます」
“生活の習慣を変えたい”と熱望していた宮川が、お風呂掃除の常識を変えた。(文中敬称略)
取材・構成■中沢雄二
※週刊ポスト2012年12月14日号