アクリ社の工場には、阿部容疑者のほかにも待遇面の悪さや正社員との身分格差に嫌気が差していた従業員もいるという。
もちろん、同容疑者が犯した罪に同情の余地はまったくないが、果たして個人的な問題で終わらせてしまっていいのだろうか。
「製造現場におけるマネジメントの劣化はアクリ社に限った話ではありません。いまや正社員だけの職場はなく、契約社員や派遣社員、業務請負などいろんな雇用形態の人が入り混じっている会社がほとんどで、一人ひとりの勤務状況を把握する機会が少なくなっているのは確かです。
会社側は身分に関係なく、それぞれの働き方や職場環境に対する声を吸い上げて改善するなど、常に従業員に寄りそった労務管理をしなければ、またいつ同じような事件が起こらないとも限りません。
マネジメントの最適化は、おざなりな成果主義の導入では何の解決にもなりません。もっと従業員の熟練度合いに則した手当てを細かく設定するなど、客観的に平等になるような賃金体系に見直すことも必要です」(溝上氏)
日本経済の中核をなす製造業。その生産現場のあちこちで従業員の顔が見えない状況になっているのだとしたら、危機管理や安全性の問題以前に由々しき事態だろう。