7月に開始される国立競技場の解体工事は2015年10月まで続く。その後、イラク出身の建築家ザハ・ハディド氏がデザインした新国立競技場の建設が始まる予定だ。だが、巨額の建設予算そのものが二転三転するなどいまだに異論が渦巻いている。
新国立競技場のデザインが日本スポーツ振興センター(JSC)のコンペで採用されたのは、2012年11月のこと。流線型の巨大なUFOのような外観が見るものを驚かせた。
この近未来的なデザインに対し、昨年8月、幕張メッセや東京体育館を手がけた有名建築家の槙文彦氏が「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」との論考で異議を唱えた。その直後の9月、2020年の東京五輪の開催が決定。ザハ氏デザインの新国立競技場がメインスタジアムになると確定すると、槙氏の主張に賛同する声が日増しに高まった。
ザハ案が多くの批判に晒されている一番の原因──、それは、人類学者の中沢新一氏が「一匹の巨大な恐竜」と評したほどの異様さと巨大さにある。
巷間、目にする新競技場のイメージ図は上空からの完成図ばかりで、実際の住人目線でどう映るかは議論されていない。しかし、施設の高さは現競技場の倍以上もある70メートル級で、観客席は現在の5万4000席から8万席まで増席となる。現在、国立競技場の南側に位置する明治公園、日本青年館を丸々呑み込む膨大な延べ床面積は、現競技場の5.6倍の29万平方メートルに達し、フィールドの他にも、スポーツ関連の商業施設、博物館などを備える一大複合施設となる。
しかし、この超巨大施設が周囲の景観を破壊するという意見は多い。建設現場となる神宮外苑は、明治天皇と皇后の遺徳を後世に伝えるため国民からの寄付金で造成された地であり、良好な自然的景観を維持する都の「風致地区」に指定されている。100年近くの歴史を持つ樹木が立ち並んでいたが、今回の建て替えにより、その多くが伐採される。
「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」の共同代表を務める作家の森まゆみさんが憤る。
「70メートルもの高さはマンションでいうと20階建て以上になります。銀杏並木や重要文化財の聖徳記念絵画館が立ち並ぶ美しい神宮外苑に突然、巨大なコンクリート製の壁がそそり立つことになる。こんなものを作らせるわけにはいきません」
※週刊ポスト2014年6月13日号