観光大国であるフランスは、それにあぐらをかくことなく常に危機感をもって自国の見せ方を考えており、フランス観光開発機構という分析機関が「観光基盤会議」を昨年立ち上げている。そこで30の行動計画と5大優先課題を策定している。

 そこでは従来の「名所・名勝」に加え、自然資源を活かす「山岳地帯」の観光、ゆっくり滞在して伝統的な生活を楽しむ「スローツーリズム」、「その土地の芸術」、さらに昼間だけでなく夜をどう過ごしてもらうかという「夜のツーリズム」を活性化させるという戦略が立てられた。いずれも日本に相当するものを考えることは可能だが、日本人はこのように概念で考えていくことが苦手なようだ。

「これ楽しいんじゃない?」「できるんじゃない?」と試行錯誤はするけれど、実際に自分たちが何をやっているのかを体系的に理解しているわけではないケースが多い。コンセプトを決めて、そこに日本の魅力を当てはめ、外国と差異化を図り日本独自のスタンダードを作ることを考えていく必要があるのではないか。

 そのためには、観光産業が大きく成長する今こそ、日本独自の哲学やメッセージをきちんとした論理を持って説明することを始めるべきだろう。

 温泉旅館で、なぜ女将が入り口で迎えてくれるのか、なぜ部屋に入ると浴衣に着替えるのか。なぜ風呂や食事の間に、布団などが用意されているのか。習慣だといったらそれまでで、単に「面白い」で終わってしまう。そうではなく、きちんと説明する言葉を持つことで、それが日本の「おもてなし」精神の理解につながるのである。

 それは日本の哲学でありメッセージである。観光は楽しんでもらうのが第一で理屈は要らない、というのは単なる言い訳であって、観光客は日本を理解したくて来ているのだ。外国人は理由がないものや明確な説明がないものは奇異に感じる一方、論理が伝われば理解が深まる。それが日本人の考え方の理解につながり、ひいては日本全般の理解につながるかもしれない。その積み重ねが、外交の未来を作ると言っても過言ではないだろう。

※SAPIO2015年11月号

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