――仕事とは別に趣味を持つのもよさそうですね。
田中:趣味をもつことはおススメです。趣味の集まりに一回、参加しただけで、そこに馴染めないからと趣味ごと辞めちゃう人がいます。でも、馴染めないのは当たり前ですから、何度でもチャレンジしてほしいです。元に戻っちゃうのはもったいない。自分の心地よいところが見つかるまで頑張ってみてください。僕自身も、けっこう失敗しました。カッコいいかと思ってカメラを買いましたが、撮るものもなく撮ったところで何も感じない(笑)。結局、カメラはゴミになりました。
――お話から、中年男性にはロールモデルが存在しないことが浮き彫りになりますね。
田中:中年になって、じゃあ、どう生きていく? という女性向けの本は、ジェーン・スーさんや湯山玲子さんなどが書かれたエッセイという形でいっぱいあるんですよね。
でも、男性の場合は年収●●円になる、とか自己啓発本のような、自分を顧みる必要がない本のほうが読まれています。これまでの価値観では、自己反省なんて男として情けない、という側面があったためでしょう。男性が広く自分の抱えている悩みや問題を人と話す、居酒屋で飲んで発散するのとは違った、真面目に共有するような場があれば解決できます。
――中年男性がどう生きていくかはこれから実践され語られることなんですね。
田中:いま40代を迎えた団塊ジュニア世代は人数が多いですが、変わらないまま年を取ったら世代ごと、迷惑がられるでしょう。あまりいいことがない世代ではあるなと、本を書いていて我ながらかわいそうになりました。ですが、幸いにして、今は時代の変わり目です。本で書いたことは個人の心がけについてですが、やはり、社会が男を見る目を変えていかないと、最終的には男性は救われない。女性も同様です。
――男性の生き方について変化を求める動きは、これまでなかったのでしょうか?
田中:かつて日本で1990年代にメンズリブというものがありましたが、2000年代初頭には壊滅しました。男の人だってもっといろんな生き方があってもいいじゃないかという異議申し立ては、20年前には通用しませんでした。でも今はダイバーシティ、多様性という言葉が普及しているので、男性にとってチャンスです。
――中年には別の可能性が開けてきそうですね。
田中:おじさんの特権として、まじめなことをまじめにやっていても、もうあんまり恥ずかしくないということがあります。たとえば大学生だったら、政治的な議論をすると茶化されることが少なくないですが、おじさんは逆に、まじめな話ができないほうが本当は恥ずかしい。まじめなことにまじめに取り組むことを、ぜひやってもらいたいなと思うんですけどね。
――気恥ずかしさは幻だったんですね。では、時代を変えるというまじめなことにも、中年だからこそ取り組めそうですね。
田中:今さら、仕事中心以外に変えろといわれても戸惑いもあると思います。でも、そこは可能性でもあるわけです。40男の世代が、新しいものをつくっていければいいなと思います。
●田中俊之(たなか・としゆき)1975年生まれ。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程修了。博士(社会学)。学習院大学「身体表象文化学」プロジェクトPD研究員、2013年より武蔵大学社会学部助教。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。主な著書に『男性学の新展開』(青弓社)、『男はつらいよ』(KADOKAWA)、近刊に『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト・プレス)。