誰もが勇ましいわけではないので、注意することで粘着されたり、よりトラブルになることを恐れて、黙っている子もいます。じっと耐えているアイドルのことを思うと悲しい気持ちになりますが、無自覚のまま、にこにこ微笑んでいる地下アイドルに嫌われてしまったファンの方のことを思うとさらに悲しくなります。そんな悲劇が起きないように、また、地下アイドルなんて一生会う機会ないよ! と、思っている方にとっても、笑顔で接する女の子たちの本音に興味本位でお付き合いください。
セクハラと同じで、最も悲劇が起こりやすいのは、肉体的に接触することです。周囲の地下アイドルたちに話を聞いていると、どうしてもチェキ撮影で距離が近づいた時にトラブルが起きやすいようです。最近では、サービス合戦で地下アイドル側から接触することもあるので、観客側の感覚が麻痺してしまうのも仕方ないかもしれません。
またも私の体験なのですが、人差し指おじさまに続いて、50代くらいのあまりライブに来たことのない男性が、抱きついてこようとしたこともあります。咄嗟に手のひらで首の辺りを押さえてしまったのですが、それでも迫ってくるので、私が首を絞めているような光景になったまま、笑顔で撮影しました。ここまであちらもこちらも強引だと、意外と清々しく別れられるものですが、こんなにひどいことは(当然ですが)滅多にありません。
しかし、トラブルに発展しないように、距離を置くことで、対応が悪いと思われるのも、地下アイドルにとっては致命的です。そこで効果的なのが、撮影の定番ポーズを決めることだそうです。たしかに同じポーズをすれば、連帯感もありますし、接触もしません。中でも、私が冷やっとした方法は、「接触したくない時こそ、ふたりで手を合わせてハートマークを作る」と話す子がいたことです。「ハートなら爪の先しか接触しないから」とのことで、あの定番のポーズが、自衛に使われていたのかと思うと、これからハートマークを見る目が変わってしまいそうです。
そして、さらに怖がられるのが、プライベートに踏み込む行為です。地下アイドルには、本名を聞かれることに抵抗のある子がとても多いです。芸名だからこそ、舞台で人前に立っても、照れたり恥ずかしがったりせずにいられるという話は、インタビューをしていると、よく耳にします。SNSでも、舞台でも、キャラクターを演じ続ける職業だからこそ、恐怖心が強いのでしょう。
先日、未成年の地下アイドルが「ファンレターに住所や電話番号が書いてあると、がっかりする」という旨のツイートをして、物議を醸しました。住所を書いて返信を待つファンレターの楽しみは、ファン活動の定番でした。でも、SNSで文章のやりとりができて、現場でも頻繁に会える若い地下アイドルにとっては、手紙というのは文通するというよりも、私生活で会おうとしている! という下心を感じてしまうのかもしれません。ファンは良かれと思ってやっていることが、悲劇に繋がってしまう最たる例だと思いました。
ちなみに私は「アイドルだからって、文章の仕事もらえていいね!」と、たまに言われて、ひどく嫌な気持ちになります。これもパワハラ、セクハラ…………かと思いきや、ただの正論でした! 正論って嫌な気持ちになるものです……。嫌な気持ちになった時は、本当に相手に非があるのかよく考えます……。そして、今年もそんな私に原稿を書かせてくださった編集さん、出版社さん、記事を読んでくださったファンのみなさま、偶然読んでしまったあなたにも感謝の気持ちを込めて、よいお年を。