「鉄道各社が緑化に力を入れるのは、快適に鉄道を利用してもらうためです。鉄道会社は単に電車で人を運ぶだけではありません」と話すのは西武造園事業開発部の清水遠さん。西武鉄道は”緑のネットワーク”と銘打って、系列会社の西武造園とともにステーション緑化に取り組んできた。西武鉄道はすでに20駅でステーション緑化を完成させている。
西武のみならず、最近の鉄道各社は沿線の不動産価値を高めようと緑化に力を入れている。その中でも、西武造園が強味としているのが壁面緑化だ。
「これまでの駅緑化は駅前広場やロータリーといった駅前を緑化することが主でした。しかし、駅や駅前広場、ロータリー、そのほかの敷地との境目が曖昧で、どこまで緑化していいのか判然としていませんでした。そのため、緑化しづらい面がありました」
当時、行政や大規模商業施設でも緑化は進められていたが、その多くは屋上部分に緑地をつくる屋上緑化だった。屋上緑化は技術的には比較的容易だが、広大なスペースを必要とする。そのため、駅舎などには不向きだった。
緑化の風向きが変わったのは2005(平成17)年に開催された愛知万博だった。愛知万博では、バイオラングと呼ばれる緑化壁の技術がお披露目された。それを参考にして、西武造園は壁面緑化に舵を切る。2007(平成19)年、西武鉄道の西武球場前駅に省スペースでも緑化ができる壁面緑化が完成。それを皮切りに、西武線の駅で壁面緑化が進んでいる。
「壁面緑化は荷重といった建物への制約もあり、風や幅射熱などの影響を受けやすいので技術的には難しい点があります。その一方で、壁面緑化は小さなスペースでも緑化できるため、駅の緑化には適しています。緑化の技術が向上したことで壁面緑化が容易になってきました。それでも駅緑化には課題がありました。植物を育てるには太陽の光が必要ですが。駅構内は日光が当たりません。それらの課題は、水や肥料を工夫することで克服しています」(清水さん)
現在、西武線では緑化をした駅は20箇所にも増えている。清水さんは「緑一辺倒の緑化ではなく、季節感を感じられる花を植える緑化に取り組んでいきたい」と今後の希望を語る。
無機質だった都会の駅の風景が鮮やかに変わろうとしている。