握り寿司体験を楽しむ外国人たち


 たしかにこの界隈、明治神宮では伝統文化の厳かな雰囲気が味わえる一方で、カワイイ、クールの聖地・竹下通りもすぐ近く。ズラリと高級ブランド店が並ぶ表参道もあり魅力的な観光エリアだ。

 ところが、「竹下通りの英語マップもなく、駅の近辺でトイレが無料で利用できる場所の案内も十分とは言えない状態で、駅の改札で外国人に道を聞かれる駅員さんの姿をたびたび目にしました」と小川さんは意外なことを口にした。

「だからまず街の案内役、訪日客の『駆け込み寺』になろう、と」

 TICは目前の観光客のニーズに応える形で地元商店街と連携し英語マップの作成からスタート。学生アルバイト等に活躍してもらいスワヒリ語、ミャンマー語など最大18言語に対応できる体制も整えたという。

 だが……ふと疑問がよぎった。ラーメン湯切り体験も寿司握り体験も店のキャパシティを考えればどうしても参加人数は限られてしまうはず。

 体験ツアーは本当に「儲かる商売」と言えるでしょうか?

「おっしゃる通り、単体の商品だけでは厳しい面があります。そこで荷物預かりサービス、Wi-Fiレンタル、土産物の販売や外貨両替、送金サービスなどさまざまなサービスを多角的に組み合わせて、提供しています」

 単品ではなく「定食化」することで利益をあげるビジネスモデルなのだという。

「中には北海道でスノーボードを楽しんだオーストラリア人が東京観光にやって来て、ロッカーに入らないからスノボを預かってほしい、そんなご要望もあるんですよ」

  そう、思いも寄らぬところにインバウンドビジネスの芽は隠れている。いかに外国人目線になって細かなニーズに気付き、立ち寄ってもらい、そこを入口に他のサービスと接続させていくことができるか、がポイントなのだ。

●やました・ゆみ/五感、身体と社会の関わりをテーマに、取材、執筆。ネットでメディア評価のコラムも執筆中。4月に増補文庫版『なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか』を刊行。その他、『都市の遺伝子』『客はアートでやって来る』 等、著書多数。江戸川区景観審議会委員。

※SAPIO2016年7月号

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