教育委員会は内申書について、「挙手の回数など印象的なものでなく、学習の内容や態度などを評価する」と主張するが、子供たちは「現実」を知っている。中学校の教室では生徒同士で「関心・意欲・態度が下がるぞ」などと冗談めかして言い合い、計算高い生徒は授業中に率先して手を挙げ、学級委員長や生徒会の役職を競って奪い合う。
ある中学では、教師が「できるだけ多く漢字を書き取りましょう」と指示すると、用紙の裏までびっちりと同じ漢字を書いてアピールする生徒が続出した。もはや漢字を覚えることではなく、教師に好印象を与えることが勉強の目的となっているのだ。
そうした“内申書選抜”の結果として、上位の公立高に合格するのはバランスのいい万能タイプばかりになる。よく「(家庭環境が様々な)公立は私立より個性豊か」などと言われるが、実態は逆で、近年は公立高の「没個性化」が目立つ。
その一方、冒頭の男子中学生のように主要教科をコツコツと勉強するが自己アピールが苦手で大人しいタイプの生徒は割を食う。
しかも東京都は今年度から「副教科」と呼ばれる技術家庭、体育、美術、音楽の内申点を2倍にした。偏差値偏重でなく、バランスのいい生徒を育てるためと都は言うが、実技科目は主要教科に比べて努力に応じた成果が出にくく、コツコツタイプの内申書はさらに分が悪くなった。
【Profile】おおたとしまさ●1973年東京都生まれ。麻布学園(中高)卒。東京外国語大学中退。上智大学英語学科卒。リクルートで雑誌編集に携わり、2005年に独立。育児・教育に関する執筆・講演活動を行う。『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)ほか著書多数。
※SAPIO2016年8月号