今回のトルコのクーデター未遂事件が中東情勢に与える影響をもっとも注視しているのがロシアだと思う。結論を先に述べると、ロシアはトルコとの提携を強化する。
〈ロシア外務省は16日、「合法的に選ばれたトルコの指導部と共に建設的な作業を進める用意がある」との声明を出し、エルドアン政権支持の姿勢を示した。/シリア内戦を巡っては、アサド大統領の退陣を求めるトルコと、アサド大統領を支えるロシアの立場は対立してきた。ただトルコ国内の混乱が長引き、ISやその他のテロ勢力が勢いを増すことがあれば、ロシアにとっても大きな脅威だ。〉(7月17日「朝日新聞デジタル」)
ロシアのプーチン大統領は、エルドアン大統領のことを嫌い、軽蔑している。しかし、トルコが内戦状態になって大混乱すると、その影響が、アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージア、さらにはロシアの北コーカサス地域に及ぶようになることを警戒している。
それだから、政治的にエルドアン大統領を支持し、中東地域で現在維持されている勢力均衡が大きく崩されることがないように腐心している。
【PROFILE】佐藤優●1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。SAPIO で半年間にわたって連載した社会学者・橋爪大三郎氏との対談「ふしぎなイスラム教」を大幅に加筆し『あぶない一神教』(小学館新書)と改題し、発売中。
※SAPIO2016年9月号