日本には約2000の業界専門誌(紙)があるが、全国紙に大きな新聞広告を打てる媒体はそうそうない。数少ないその専門誌のひとつ賃貸不動産オーナー向けの『家主と地主』最新号(2016年8月号)の巻頭特集記事は「賃貸住宅で起きた驚きの事件」である。奇妙な事件に遭遇した家主が、顔と実名を出して自らの体験を語るスタイルで、13本もの事件ルポが並んでいる。家主でも地主でもない“素人”が読んでも面白い、それらの記事を紹介しよう。
あるアパートで起きた事件は、女性入居者からの一本の電話で始まる。
〈「庭にワニがいるんです。どうすれば良いですか? 怖いです!」〉
家主は半信半疑ながらも他の入居者に外へ出ないよう連絡したうえで現場に向かうと、パトカーや救急車、消防車が駆けつけ大騒ぎになっていた。入居者がパニックになって通報したのである。
対応に困り、爬虫類の販売業者に連絡したところ、ワニにICチップが埋め込まれていたため、飼い主が判明し、専門家らとともに捕獲に成功。けが人も出ず、ことなきを得た。
家主の締めのコメントは、〈今後起きるかどうかわからないが、専門機関に連絡して、飼い主を割り出すとスムーズに対応できる〉。このアドバイスが本当に参考になるのが、この雑誌の面白いところだ。
別の事件簿は、中古のワンルームマンション16戸を購入し、晴れて家主になった人を襲った災難。
管理会社の担当者が、一室ずつ回ってオーナーの交代を伝えようとしたところ、何度訪れても一室だけ返答がない。1週間後、市役所から、その住人と「連絡が全く取れない」という電話が入り、管理会社の担当者と警察官とともに部屋に入った。そこで布団に横たわり病死している入居者を発見。死後7日から10日経っていた。物件の所有権が移る前に、すでに死んでいたのである。
家主は、〈私が物件を決済した前後で、まさか決済を済ませた時、ご遺体の引き渡しも完了していたとは思いませんでした〉と語っている。“座布団一枚”のコメントだが、本人はさぞや背筋の寒い思いをしたことだろう。
このケースは売買契約書に「入居者安否確認事項」を盛り込むことで、避けられるという。
※週刊ポスト2016年8月19・26日号