これは子飼いとはいえ安治を信用できず気になりすぎて神経質になっている行動とも読み取れる。さらには材木出荷の遅れを棚に上げ、名を上げるチャンスのある合戦への参加を願い出た安治の態度に、秀吉は「材木担当をしっかり務めよ」と何度も叱責するのだ。
さらには安治に、伊賀の統治が上手くいかないなら別の者に担当替えするぞ、と脅しめいた書状も送りつけている。安治の態度と能率に問題はあるだろうが、ひとりの武将に、ひとつのことでここまで執拗に書状を送るのは異例だ。ほかには、かつて仕えた信長を呼び捨てにするなど秀吉の信長観も垣間見られる。
秀吉は日本を統べる天下人でありながら、実は、他人に仕事を任せきれず業務の全てを自分で管理したがるネチネチとした性格の中小企業のワンマン社長のような人物だったことが今回の発見でわかったのだ。
【PROFILE】村井祐樹/1971年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院文学研究科博士課程単位取得退学。研究テーマは、室町・戦国大名の研究。著書に『戦国大名佐々木六角氏の基礎研究』(思文閣出版)など。
●取材・構成/浅野修三(HEW)
※SAPIO2017年4月号