では利用者の利便性はどう考えるのか。完全に片側空けを禁止したら、通勤ラッシュ時の駅などではエスカレーター待ちの大混雑が起きるとの懸念もある。
「そうとは限りません。立って乗りたい人の列がずらりと延びて、空いた側がガラガラという光景をよく見ますよね。むしろそのほうが効率が悪く、2人ずつ順番に乗ったほうが輸送能力も上がります」(前出の担当者)
利用者の中からは、〈高速エスカレーターを増やしたら歩く人は減るのでは?〉〈一人しか乗れないエスカレーターを2レーン作って、一方を歩行者専用にすればいい〉など、様々な意見も出ているが、協会は「そもそも、動いているものの上で歩く行為自体が危険」とバッサリ。
とはいえ、もはやポスターや注意喚起のアナウンスだけでは周知は進みそうにない。協会が行ったアンケートでも、歩行が危険だとの認識は広がりつつも、「自分も歩いてしまうことがある」と答えた人が84%もいた。
鉄道会社などを主体に、厳格な「歩行禁止ルール」を定めれば解決する問題かもしれないが、そこまで強行できない悩ましさもある。
「本来、急いでいる人はエスカレーターではなく、階段やエレベーターを利用すればいい話ですが、いまの駅はエスカレーターの傍に階段やエレベーターがあるとは限りません。人がスムーズに流れる“導線”が築けていない現状があるのです」(同前)
現状では利用者のモラルに任せるしか手がなさそうだが、一度染みついた慣習を完全に取り払うのは容易なことではない。エスカレーターの長さや混雑状況、周囲の環境に応じて柔軟に対応していく「具体策」がなければ、事故も減っていかないだろう。