地下アイドルのファンは、突出した能力や技術よりも、普通の女の子の「なんとなくいいな」という曖昧な魅力を地下アイドルに見出して楽しむことができます。そんな彼らだからこそ、傷を負った地下アイドルであっても関係なく、受け止めることができる柔軟さを持っているのです。
いじめの経験者でもアイドルとして人前に立つ活動を続けられる理由は、地下アイドルを気遣いながら、楽しいことを見出してくれるファンの存在が大きく影響しています。ファンが存在してくれることで、女の子たちは、学校という社会で失われてしまった、「人に好かれる自分」を地下アイドル業界という別の社会の中で再び獲得することができるのです。
地下アイドルの世界は、ファンとの距離が近いことから、ファンもアイドルに対して名前や顔を覚えてもらいたい欲求があります。その欲求に応える過程が地下アイドルの活動のひとつでもありますが、それは、人間関係を構築していく作業そのものです。
その楽しさも難しさも含めて、人と接する面白さを思い出して、徐々にいじめられている時とは違う世界が、この世界にもあることを思い出していきます。新しい居場所を見つけた時、地下アイドルはいじめについて話すことができるのです。
担当編集者やインタビュアーに頼まれたから、という消極的な理由でいじめ体験を話し始めた私ですが、地下アイドルとして過ごした8年がなければ、今でも話せないままだったかもしれません。
ちなみにあの鬱屈とした日々について、今でも両親と話すことはありません。これは生まれ育った家庭ではなくて、社会に出た後の私の問題だったからです。私は両親だけと過ごせていた環境を離れて、学校という社会に出て居場所を失い、地下アイドルの世界に再び居場所を見つけました。家庭に居場所があることと、社会に居場所があることは、私の中で全く別の問題だったからです。
両親のいる家はいつか失われます。その時、社会でやっていけない自分のままだったら、もう一生どこにも居場所を見つけることができないと思っていたのです。もし違う業界でずっと肩身狭く過ごしていたら、私はいじめの体験についても話せないままだったでしょう。
もしいま鬱屈としている人がいたら、地下アイドルのことは全く知らなくても、私が体験したように、意外な場所に居場所を見つけることもあるということを知っていただけたら幸いです。
●ひめの・たま/地下アイドル、ライター。1993年2月12日、下北沢生まれ。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業も営む。主な音楽作品に『First Order』『もしもし、今日はどうだった』、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。