ライフ

鎌田實医師 もし自分がALS嘱託殺人被害女性の主治医なら…

諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師

 2020年7月、東京都と仙台市の医師2人が嘱託殺人罪で逮捕された。彼らに問われたのは、2019年11月、京都市に住む筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性から依頼され、薬物を投与して殺害した嘱託殺人罪。女性には別に主治医がいたが、逮捕された2医師は主治医らとはまったく繋がりのない人たちだった。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、もし自分が亡くなった彼女の主治医だったら、と考えてみた。

 * * *
 森鴎外の『高瀬舟』は、安楽死をテーマにした作品といわれている。自死を図った弟を殺めて罪に問われた男を、護送する同心の視線で描いている。医師でもある鴎外は、なぜこの物語を書いたのだろうか。

 鴎外は、1898年に安楽死についてのドイツの論文を翻訳している。病人の苦痛を救うために死を早める権利が医療にあるかどうか。その問いに、応ずるは殺すことと同じと考え、積極的安楽死を否定している。

 親としてのつらい体験もあった。幼い子2人が百日咳にかかり、次男を亡くした。長女も瀕死の状態になったとき、主治医がモルヒネ注射による安楽死をすすめた。鴎外は悩んだ末、それに応じるが、見舞いに来た義父に止められた。その長女が、後に作家となる森茉莉である。

『高瀬舟』では最後、弟の苦痛を除こうとした兄の行ないを罪と呼ぶのかどうか疑問をもちつつ、「お奉行様に聞いて見たくてならなかった」としている。ここには、近代的自我の存在はなく、判断はお上に委ねられたままである。

 現代のぼくたちには物足りないが、いったんはあきらめた子どもの命や、軍医としてかかわった兵士の命に対する鴎外自身の苦悩が書かせたのだと思うと、胸に迫るものがある。

 京都の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性(当時51歳)の依頼を受けた2人の医師が、嘱託殺人の罪で起訴された。

 日本では、積極的安楽死は認められていない。東海大学安楽死事件で横浜地裁が示した安楽死の4要件は、【1】患者が耐え難い激しい肉体的苦痛に苦しんでいる、【2】患者の病気は回復の見込みがなく死期が迫っている、【3】患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くしたが、ほかに代替手段がない、【4】患者が生命短縮を承諾する意思を示している──である。この事件では、【4】しか当てはまらない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

令和6年度 各種団体の主な要望と回答【要約版】
【自民党・内部報告書入手】業界に補助金バラ撒き、税制優遇のオンパレード 「国民から召し上げたカネを業界に配っている」と荻原博子氏
週刊ポスト
なかやまきんに君が参加した“謎の妖怪セミナー”とは…
なかやまきんに君が通う“謎の妖怪セミナー”の仰天内容〈悪いことは妖怪のせい〉〈サントリー製品はすべて妖怪〉出演したサントリーのウェブCMは大丈夫か
週刊ポスト
常に全力笑顔の林家つる子
《抜擢で真打ち昇進》林家つる子、コロナ禍でYouTubeに挑戦し「揺るがない何かができた」 サービス精神旺盛な初代・林家三平一門の系譜
週刊ポスト
グラビアから女優までこなすマルチタレントとして一世を風靡した安田美沙子(本人インスタグラム)
《過去に独立トラブルの安田美沙子》前事務所ホームページから「訴訟が係属中」メッセージが3年ぶりに削除されていた【双方を直撃】
NEWSポストセブン
エンゼルス時代、チームメートとのコミュニケーションのためポーカーに参加していたことも(写真/AFP=時事)
《水原一平容疑者「違法賭博の入り口」だったのか》大谷翔平も参加していたエンゼルス“ベンチ裏ポーカー”の実態 「大谷はビギナーズラックで勝っていた」
週刊ポスト
阿部詩は過度に着飾らず、“自分らしさ”を表現する服装が上手との見方も(本人のインスタグラムより)
柔道・阿部詩、メディア露出が増えてファッションへの意識が変化 インスタのフォロワー30万人超えで「モデルでも金」に期待
週刊ポスト
中条きよし氏、トラブルの真相は?(時事通信フォト)
【スクープ全文公開】中条きよし参院議員が“闇金顔負け”の年利60%の高利貸し、出資法違反の重大疑惑 直撃には「貸しましたよ。もちろん」
週刊ポスト
店を出て並んで歩く小林(右)と小梅
【支払いは割り勘】小林薫、22才年下妻との仲良しディナー姿 「多く払った方が、家事休みね~」家事と育児は分担
女性セブン
大の里
新三役・大の里を待つ試練 元・嘉風の中村親方独立で懸念される「監視の目がなくなる問題」
NEWSポストセブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
「特定抗争指定暴力団」に指定する標章を、山口組総本部に貼る兵庫県警の捜査員。2020年1月(時事通信フォト)
《山口組新報にみる最新ヤクザ事情》「川柳」にみる取り締まり強化への嘆き 政治をネタに「政治家の 使用者責任 何処へと」
NEWSポストセブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン