仙台育英の伊藤は1年夏から甲子園のマウンドを踏み、昨夏の甲子園交流試合も経験しているが、森木はここまで一度もその舞台に立てていない。1年夏は高知大会決勝で明徳義塾に敗れ、昨秋の高知大会決勝でも明徳義塾の壁を破ることはできなかった。さらに選抜切符の懸かった四国大会は1回戦で敗退した。
「なかなか思うようにはいかないなというのはありますけど、諦めないことが大事だと今は思っています。甲子園の舞台には、誰もが立ちたいと思う。でも、一握りのチームしか立てない。その一握りのチームになるのは、難しいことなんだと改めて思います」
高校入学後の最速は、昨秋に記録した151キロだ。傍目には中学時代に記録した150キロからわずか1キロの成長に映るかも知れないが、スピードガンの表示に今の森木はこだわっていない。
「思うような結果が出なかった時は、スピードを出さないといけないという焦りがあった。150を中学で出せたとしても、それはもう過去の話。今の自分は球速にはこだわっていない。その分、ストレートの質にはこだわっている。抽象的な表現ですけど、強いストレート。ストレートと打者が分かっていても打たれないストレートが理想です」
インタビュー中、森木がふと思い出したように、球速にまつわるエピソードを口にした。
「実は1月31日に、卒業する去年の3年生との引退試合に投げたんです。引退試合ですから“打たせてあげよう”ぐらいに軽い感じで投げたら、151キロが出たんです。自分的には145ぐらいの感覚だったんですけど。冬のトレーニングで下半身が上手く使えて、バランス良いフォームで投げることとによって、そういうボールがいくんだと思います」
夢はもちろん、プロ野球選手。
「高卒で行くことを目指しています。そのためにも、日本一の投手になりたい」
仙台育英は選抜の1回戦で、明徳義塾に1対0と辛勝した。森木と頻繁に連絡をとり、近況を報告し合っている伊藤はその試合で好リリーフをみせた。しかし、準々決勝の天理戦では打ち込まれてしまい3対10で敗退。
一方の森木は、「投げないかも知れない」と話していた春季高知大会の準々決勝に1イニングだけ登板し、プロのスカウトのスピードガンはまたしても151キロを記録したという。
共に日本一を目指す両雄にとって、最後の夏は雪辱を期すマウンドとなる。
■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)