お笑いとホラーを掛け合わせることにはどのような魅力があるのだろうか。瀬沼氏が解説する。
「笑いとホラーには相乗効果があるはずです。事故物件というだけで、リアルで様々な怪奇現象に対する伏線を張り巡らせることができます。笑いが派生するメカニズムの1つとして『緊張の緩和』はしばしば指摘されることですが、芸人さんは、緊張を緩和させるだけではなく、緊張感そのものを作るのもうまいのだと思います。
さらに、事故物件というだけで緊張感を作ることができるので、芸人さんが武器とするトーク力、ツッコミ、リアクション、観察力などでそれをうまく緩和すれば笑いに、緊張のまま放置、あるいは、緊張感を不安や未知な方向に向かわせれば、怖さを演出できるはずです。こうした意味で芸人さん的にもコントロールしやすいのでしょう。
また、作品や媒体にもよりますが、視聴者目線では、がっつりとホラーとして味わうこともできれば、芸人さんのリアクションやトーク、コミカルな部分に対して、怖いけど笑うこともできるといったように、自分のなかで最適な距離感を保つことができる要素もあるのではないでしょうか」
瀬沼氏は“事故物件芸人”の活躍が、リアルな不安を抱えながら生きていく今の時代に示唆を与えてくれるとも指摘する。
「ニュースなどを通して聞いていた“孤独死や自殺が多い”という報道は、どこか自分とは遠い話のように思っている人も多いでしょう。しかし、事故物件に住むという芸人さんの企画やその映画は、それらの社会問題が、実は自分の日常と隣り合わせの身近なところで起きていることだ、という現実を教えてくれることも、リアルさや不安さを増幅しているのだと思います。
そんなリアルな不安さとうまく折り合いをつけて生活をしている“事故物件住みます芸人”の生き方は、コロナ禍で日々不安を抱えている私たちの生き方の見本にもなっているのかもしれません」(瀬沼氏)
お笑いとホラーは表面的には相反するように見えるものの、わたしたちはしばしば、予想外の出来事に直面することで、思わず肩の力が抜けて笑ってしまったり、あるいは恐怖を覚えたりすることがある。どちらも「驚き」を用いて緊張と緩和をコントロールするエンタテインメントだという意味でも、その掛け合わせが、予想外の世界に突入したコロナ禍の現在と響き合っていることには頷けるだろう。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)