ライフ

「実体験は私自身」マルチ商法にハマった西尾潤氏が描く『マルチの子』

西尾潤氏が新作を語る

西尾潤氏が新作を語る

【著者インタビュー】西尾潤氏/『マルチの子』/徳間書店/1980円

 正直、『なぜマルチなんかに?』と、傍目には思う。が、何事も渦中の景色は外野の想像とは違うらしく、西尾潤著『マルチの子』は、俗にいうネットワークビジネスにハマる人々の心理が実体験に基づくだけに胸に迫り、なおかつ小説的にも抜群に面白い、目下注目の新鋭の第2作目である。

 主人公〈鹿水真瑠子〉は、賢くて美しい姉〈真莉〉や可愛らしい妹〈真亜紗〉に強い劣等感を抱えて育ち、何をやっても続かない21歳。そんな彼女が〈健康増進協会〉お墨付きの高額寝具を主に扱う通称〈HTF〉で仲間と出会い、意外な才能を発揮する様は、ともすれば成長小説や青春小説として読めなくもない。しかしマルチは所詮マルチであり、来るべき破綻と転落の先に、西尾氏はどんな景色を用意するのか?

「実体験はそう、私自身のです。20~22歳の2年半強、マルチビジネスにどっぷりハマった、元経験者なので。しかも入って早々、〈竹やん〉みたいな優秀な弟分が現れて、一時組織が800人規模までいったのかな。月収も7桁を越え、史上最年少のゴールド会員として『この子は凄い』と方々で誉めそやされた私は、要は調子に乗っていたんです。

 当時は入る金は計算しても出る金のことは頭になく、2年半の間に膨れた借金が700万。どうにか完済できたからいいようなものの、あの時、借金が親にバレて、返済生活に入ってなければ、たぶんここにはいません」

 半グレや臓器売買の今に材を取った前作『愚か者の身分』(大藪春彦新人賞)で「誰もが犯罪に加担しかねない時代」の陥穽を描いたかと思うと、今作は自身がモデル。冒頭、大阪市内の某カフェでHTFがいかに画期的組織かを語り、看板商品の〈KAIMIN2〉、15万円也を無事契約に持ち込んだ真瑠子は思う。〈人が感情を揺さぶられるのは、商品やシステムの“説明”ではない〉〈背景にある“ストーリー”だ〉〈楽してお金を稼ぐ、というストーリーにみんな乗りたいのだ〉

 中でも鉄板は〈瞳さん〉の物語。瞳さんは腰痛が劇的に改善した上にゲートボール仲間らに計25台が売れ、46万円の紹介料を手にしたという虚々実々のお話だ。

 HTFの仕組みは真瑠子の上に南船場のマンションに住む元ミュージシャン〈丹川谷勝信〉が、さらにその上には1万人強を傘下に抱える東京在住のカリスマ〈滝瀬神〉がおり、配下に抱えるダウンの数や実績次第で役職やマージン率も違ってくる。

 最初は妹の彼氏など数人のダウンしか持たなかった真瑠子が、〈マイウェイ〉でも実績のあった竹やんこと〈竹田昌治〉を従え、快進撃を繰り広げるまでが前半。後半では健康被害で訴えられた本部を見切り、滝瀬ラインごと某商社系の環境ビジネスに“お引越し”したものの、その滝瀬とも袂を分かった彼女が、別の知人の誘いで仮想通貨に手を出す顛末が描かれ、そのどれもがひどく危なっかしい。

関連記事

トピックス

亡くなったシャニさん
《7か月を経て…》ハマスに半裸で連行された22歳女性が無言の帰宅、公表された最期の姿「遺体の状態は良好」「肌もタトゥーもきれいに見える」
NEWSポストセブン
別居を認めたMEGUMI
《離婚後の大活躍》MEGUMI、「ちゃんとした女優になる」を実現!「禁断愛に溺れる不倫妻」から「恐妻」まで多彩な“妻”を演じるカメレオンぶり
NEWSポストセブン
日米通算200勝を達成したダルビッシュ有(時事通信フォト)
《ダルビッシュ日米通算200勝》日本ハム元監督・梨田昌孝氏が語る「唐揚げの衣を食べない」「左投げで130キロ」秘話、元コーチ・佐藤義則氏は「熱心な野球談義」を証言
NEWSポストセブン
ギャンブル好きだったことでも有名
【徳光和夫が明かす『妻の認知症』】「買い物に行ってくる」と出かけたまま戻らない失踪トラブル…助け合いながら向き合う「日々の困難」
女性セブン
破局報道が出た2人(SNSより)
《井上咲楽“破局スピード報告”の意外な理由》事務所の大先輩二人に「隠し通せなかった嘘」オズワルド畠中との交際2年半でピリオド
NEWSポストセブン
河村勇輝(共同通信)と中森美琴(自身のInstagram)
《フリフリピンクコーデで観戦》バスケ・河村勇輝の「アイドル彼女」に迫る“海外生活”Xデー
NEWSポストセブン
『君の名は。』のプロデューサーだった伊藤耕一郎被告(SNSより)
《20人以上の少女が被害》不同意性交容疑の『君の名は。』プロデューサーが繰り返した買春の卑劣手口 「タワマン&スポーツカー」のド派手ライフ
NEWSポストセブン
ポジティブキャラだが涙もろい一面も
【独立から4年】手越祐也が語る涙の理由「一度離れた人も絶対にわかってくれる」「芸能界を変えていくことはずっと抱いてきた目標です」
女性セブン
木本慎之介
【全文公開】西城秀樹さんの長男・木本慎之介、歌手デビューへの決意 サッカー選手の夢を諦めて音楽の道へ「パパの歌い方をめちゃくちゃ研究しています」
女性セブン
男装の女性、山田よねを演じる女優・土居志央梨(本人のインスタグラムより)
朝ドラ『虎に翼』で“男装のよね”を演じる土居志央梨 恩師・高橋伴明監督が語る、いい作品にするための「潔い覚悟」
週刊ポスト
大谷のサプライズに驚く少年(ドジャース公式Xより)
《元同僚の賭博疑惑も影響なし?》大谷翔平、真美子夫人との“始球式秘話”で好感度爆上がり “夫婦共演”待望論高まる
NEWSポストセブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン