ファンのすそ野を広げたい
──F1にはマニアックなファンや年季の入ったファンも多いですが、サッシャさんの実況は初心者にもわかりやすく、F1への入り口や楽しむ選択肢を増やしていると感じます。実況にあたって、視聴者の幅をどう意識されていますか?
サッシャ:ファンのすそ野を広げていきたい、ということは常に意識しています。極端な話、マニアックな人は解説がなくても見られると思うし、自分で情報を補足できると思うんですね。そうした方にも楽しんでいただける仕事はもちろんしたいですが、モータースポーツを面白いと思ってくれる仲間が増えたらいいな、というのが一番願っていることです。
──初心者にもわかりやすく伝えるために心がけていらっしゃることは?
サッシャ:ここに注目して見れば、とりあえずレースを楽しむことができるよ、という軸を提示するようにしています。F1には、肉体的なアスリートとしての面白さと、チームが一丸となって戦う戦略的な面白さがあると思うんです。後者をたとえるなら、東大工学部のようなIQの高い集団がバチバチやりあう面白さ。今シーズンは、チャンピオンシップが肉薄していることもあって、戦略的な面白さが目立っています。タイヤ交換のタイミングとか、セカンドドライバーの動き方とか。初心者には難しいところもあるかもしれませんが、そこをわかりやすく伝えるのが僕の仕事なので、やりがいがありますね。
──もともと大ファンだったということで、好きな選手に肩入れしたり……なんて気持ちにはなりませんか?
サッシャ:ドイツ人のシューマッハをすごく応援していましたが、だからといって(ライバルの)ハッキネンが憎いとはならなかった。僕は誰かのファンという以上に、F1やモータースポーツという競技が好きなんですね。だからレーサー全員にリスペクトの気持ちがあります。
今シーズンだと、ホンダや角田裕毅選手に焦点を当てて伝えることが多いですが、それは肩入れとかではなく、母国として、日本人や日本のメーカーの活躍を伝える義務があるからです。それはどこの国でも同じで、僕の故郷のドイツであればフェッテルやミック・シューマッハの順位は常にフォローしてますし、イギリスだったらハミルトンやノリスの話題が中心ですし、僕の知る限り、日本の中継はむしろフラットなほうだと感じますね。