10年で激変したオフィス環境

――オフィスをデザインするにあたり、これまでどんな変遷がありましたか。

黒田:2000年頃から、会社の中の固定席でなく自由席で働ける、いわゆるフリーアドレス制度が台頭しました。持ち運びが容易なモバイル型のノートパソコンが浸透し始めたことも後押しになったと思います。

 さらにその後、有線LANから無線LAN、Wi-Fiが浸透していったことも大きいですね。当初は営業職の利用者が多かったフリーアドレス制も、そうした通信インフラが整ったことで研究職にも広がっていきました。

 ところが2008年にリーマンショックが起こり、特にオフィス賃料が高い東京では、経費削減からオフィススペースを縮小し、社員が狭い空間にどんどん詰め込まれていく環境がしばらく続きました。

 その後、景気が回復していく過程で、オフィスの効率性重視からオフィスイノベーションへとシフトしていきます。具体的には、アクティビティ・ベースド・ワーキング、略してABWが、発信地であるオランダから世界へ広がっていきました。

「優秀な人材を確保するためにオフィス空間はどうあるべきかという方向にシフトしてきた」と話す黒田社長

「優秀な人材を確保するためにオフィス空間はどうあるべきかという方向にシフトしてきた」と話す黒田社長

――フリーアドレスとABWの違いは?

黒田:それまでは、社員全員がオフィスのどこで働いてもいいという、いわば画一的なフリーアドレス制でしたが、ABWでは自分の仕事の内容に合わせて働く場所(オフィスに限らない)や時間を選ぼうというものです。

 そこで我々としては、仕事に集中するスペース、社内コミュニケーションをするスペース、外部の人と話すスペースなど、アクティビティに合わせて空間設計していくことになりました。

 カフェスペースなら、使われていない時間帯は打ち合わせスペースに、昼時はランチの場所、夜はパーティスペースにしたりと、空間用途を複層化していく。最近は、ホテルライク、リビングライクなインテリアテイストに樹木のグリーンを入れ、スチールの冷たい感じから極力、温かみのあるウッディな仕上げにしていくといったトレンドが、かなり加速しています。

 この10年でのオフィス空間の一番大きな変化は、かつてはスペース効率や生産性向上などコスト面が全面に出ていましたが、優秀な人材を採用するための、戦略的なオフィス設計に考え方が変わったことです。社員のロイヤリティをより上げるため、あるいは優秀な人を採るためにオフィス空間はどう在るべきか、という方向にシフトしてきたわけです。

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