家庭向けの需要が高まり高級食パンブームが起きるなど、パンブームはコロナ禍でも堅調を保っていた。ところが、同じパンでも惣菜パンや菓子パンなどの消費は落ち込んでいる。外出先やオフィスといった、主に昼食や間食で食べられていた消費分が、在宅勤務の増加などで消失したからだろう。HOKUOは外出時の需要に応えていた部分が大きかったと考えられる。
小田急の系列には箱根登山鉄道や江ノ島電鉄といった鉄道事業者が連なるほか、鉄道以外の交通事業でも国内一のネットワークともいわれる神奈川中央交通といったバス会社を擁している。
これら多くの企業はグループ会社という位置付け。小田急グループには小売業を主業とする会社もいくつかある。例えば百貨店事業を手がける小田急百貨店、スーパーマーケット事業を手がける小田急商事などが、それにあたる。HOKUOを運営する北欧トーキョーは小田急の100パーセント子会社となっている。
「HOKUOが小田急の100パーセント子会社である理由は、その成り立ちにあります。もともとHOKUOは北海道のベーカリー店でした。小田急は暖簾分けという形で事業を継承してスタートしたのです。それが現在まで続いていたのです」(同)
コロナ禍によりHOKUOの売上が減少しているとはいえ、長らく小田急のベーカリーショップとして親しまれてきたHOKUOを手放すことは、相当に熟考を要したことだろう。小田急なら、グループ企業や関連企業に事業を譲渡することだって一案として考えられたはずだ。しかし、小田急はグループ外のドンクへ事業譲渡することを選択。そうした考えに至った理由は、主に3つあると担当者は説明する。
「まず、なによりもドンクは1906年創業というベーカリーの老舗であることです。そのブランド力は大変素晴らしいものがあります。そして、譲渡するHOKUOの従業員の一定数をそのまま受け入れるなどの雇用の維持を約束してくれたことも大きな理由になっています。さらに、事業譲渡によりドンクとの関係が強化されます。それによって、小田急が今後に新規に開発する商業施設内への出店が期待できます。商業施設に魅力的な店を揃えることは集客的にも大きく、沿線価値の向上につながると判断しました」(同)
鉄道事業者とベーカリーショップの協業が、沿線価値の向上につながると聞いてもピンとこないかもしれない。しかし、過去には東急電鉄がベーカリーショップ「サンジェルマン」を子会社にしていた。また、現在も阪急電鉄は「阪急ベーカリー」を系列会社にしている。