「そういうマニアックな高級時計、私はもちろん大好きです。でもロレックスが一番高級って思ってる人は多いですからね。コレクター本人はともかく家族は知らなかったりするわけで。だから旦那さんが亡くなられた家のおばあちゃんとか、遺族の子どもが遺品整理するってときが狙い目だと聞きます」
その時計に価値があるかもわからないため買取屋に言われたら「そんなもんか」になるということか。多くは一般的には聞いたこともない時計だろうし、シンプルな二針、三針の時計だったりすると目が肥えて無ければ高そうには見えないかもしれない。
「私の聞いた話では親の遺品ですが、娘さんが出張買取で『お金になります?』って出してきたのがパテックフィリップのゴールデンエリプスだったそうです。『ボロボロのゼンマイ時計なんですけど』って、その買い取り担当いわく、胸がドキドキしたそうです」
ロレックスも素晴らしい時計だが、パテックフィリップとなると「天下のパテック」である。時計の王様、いわゆる「雲上時計」の最高峰に君臨する。パテックを買うと「ありがとうございます」ではなく「おめでとうございます」と言われる、100年前のモデルでも本社で修理できる、などの逸話はキリがない。しかしゴールデンエリプスは多くが何の変哲もない伝統的な二針モデルで、自分で巻き上げるしかない手巻きのモデルもある。古いパテックの手巻き、大変価値のあるものなのだが「ボロボロのゼンマイ時計」と捉えてしまう。知らない人ではその価値は図り難いのかもしれない。筆者も大好きなモデルだが、メンズですらあまりに小さくシンプル過ぎて、あれが中古でも何百万(状態はもちろんそのモデルの年代や搭載ムーブメントにもよる)もすると思えないのは無理もない。
「思い切って『よくわからない古い時計ですね、でもせっかくですから1万円でいいなら持っていきますよ』と言ったら売ってくれたそうです。どんなに古くてもボロボロで壊れていてもパテックフィリップですからね、犯罪でもないのにほんとドキドキしたそうです。大儲けでしょう」
実際、そうとう儲けたに違いない。なんて酷い業者だと怒るかもしれないが犯罪ではない。双方納得ずくで売り買いしたものである。貴金属買取業者をかばう気持ちはさらさらないが民法、商法ではそうなっているので仕方がない。暴力や恫喝を伴う「押し買い」なら刑事事件だが、訪問・出張買取であっても売買告知書を渡してクーリングオフ期間を知らせておけば、あとは売った側の問題、パテックフィリップの価値を知らなければ「ああ、あんなボロボロのゼンマイ時計を1万円で買い取ってくれてありがたい」となってしまうのだ。
買取業者のフランチャイズは悪魔の世界
「時計みたいな宝飾品だけじゃないですけどね、最近はオタク系のマニアグッズに目をつけているらしいです」
これはよく聞く話で、筆者の元にも以前、鉄道模型を買い取ってもらう業者にダンボールで何箱も送ったら2万円だけ振り込まれたという情報が寄せられた。リストではその10倍にはなるだろう金額だったが、「一発査定なら買取価格上乗せ」という文言を信じてしまったようだ。連絡しても回答がなく、業者も行方をくらませたという。別の屋号でやっているのかもしれない。貴金属に比べてやりたい放題の実態がある。