信長や『平家物語』など美しい名を残せば残すほど家は滅び、逆も然りだと。
「両方いい形で残せたのは真田家くらいですから」
ではなぜ人は名を残そうとするのかといえば、〈きっと寂しいのさ〉〈人だけが特別に〉と弟は兄に答え、中でも特別に寂しがり屋なのが武士という結論に至る。
「こういうことを書くのが今村翔吾という作家なんですよ(笑)。死の恐怖も根は同じですし、僕が小説を書くのも寂しいから、死んでも忘れてほしくないからだと思います」
草の者なる忍びの暗躍や驚愕の新解釈など、楽しみ方は自由自在。それでいて読後に残るのはこの兄弟やあの兄弟の孤独に慄く横顔だったりもする。それこそが今村作品らしさなのだろう。
【プロフィール】
今村翔吾(いまむら・しょうご)/1984年京都府生まれ。関西大学文学部卒。ダンスのインストラクターを経て2016年「蹴れ、彦五郎」で第19回伊豆文学賞、「狐の城」で第23回九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞を受賞、翌年『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。2018年「童神」で第10回角川春樹小説賞、2020年『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞と第8回野村胡堂文学賞、『じんかん』で第11回山田風太郎賞、2022年『塞王の楯』で第166回直木賞。174cm、76kg、A型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2022年4月29日号