エンジェルドレスのきっかけも「助けて」という当事者の声だった、と山本さんは振り返る。
2017年夏、以前からの知り合いだった佐賀大病院の助産師から連絡があった。佐賀大病院では、胎児や母体にトラブルを抱える妊婦も受け入れる。死産は避けられない問題である。死産を経験した母親は、想像もつかないほどの悲しみ、喪失感に打ちのめされる。絶望のなかにいる母親にどう手を差し伸べるか──助産師たちは、そのすべを模索していた。
2児の母であり、看護師である山本さんには、母親の悲しみも、助産師のもどかしさも他人事とは思えなかった。山本さんは実感を込めた。
「出産は、本当に命がけです。元気なわが子に会えるという希望があるから、あのつらいお産に耐えられる。もしも自分のお腹の中で子供が亡くなっていたら……。想像しただけでもつらいし、怖い。知らないですむのなら、目をそらしたいと思うのが普通かもしれません。でも、現実につらい思いをしている人がいる。自分だったらどうなのかと想像しました。まずは自分に置き換えて考えてみる。それが、私にとっては絶対に必要なプロセスなんです」
助産師は、山本さんにいくつか要望を伝えた。体の大きさが5cmほどの赤ちゃんもいる。そんな赤ちゃんも着られるドレスにしてほしい。抱っこしたいというお母さんの希望を叶えてあげたい。死産の赤ちゃんは性別がはっきりしていない場合もある。また荼毘に付すまでの間に遺体の状態が変わる。それでも、かわいらしく見える色味、デザインにしてほしい。
それまでも死産した子供に着せるドレスはあった。佐賀県には、死産を経験した母親たちのグループがある。佐賀大病院では、彼女たちが厚意で手作りした産着を死産の赤ちゃんに着せていた。しかし遺体の状態によっては、着せられなかったり、抱っこできなかったりするケースもある。助産師の話に耳を傾けながら、山本さんはエンジェルドレスのイメージをスケッチブックにデッサンした。