そう話すのは佐藤九段と交遊のある別の観戦記者だ。対局から4日後、佐藤九段は自身のツイッターで連盟に提出した不服申立書を公開している。
「実は、マスク着用ルールが施行される数週間前にも佐藤九段と永瀬王座の対局があって、その時は終盤に永瀬王座が30分以上マスクを外していた。もちろんルール施行前だから反則ではないが、同じような状況で自分は一発アウトとなり、納得できない思いもあったのではないか」(同前)
不服申立書では、盤面に集中するあまり着用を失念したことを謝罪しつつも、注意されることもなく規定が適用されたことが相当性・公平性を欠くと主張している。
「天彦九段も自分のやったことが正しかったとは思っていないのだろう。ただ、将棋界のためにも規定に様々な欠陥があると主張しておきたかったのではないか」(同前)
弁護士の助言が?
一方の将棋連盟は10月31日に〈順位戦における裁定について〉と題した文書を公開。〈一時的な場合〉の適用範囲を含めた運用説明や規定の周知に努めてきたと説明した。
ただ、本来なら裁定者となる立会人が当日は設定されていなかったことを省みて、今後は長時間の対局では立会人を常駐させるとしている。
将棋連盟の理事・森下卓九段に改めて見解を問うと、「理事会の決定事項として連盟HPで発表している文書の通り」とするのみだったが、同文書だけでは佐藤九段が不服申立書で求める〈臨時対局規定の適用基準の明確化〉など規定の欠陥改善はカバーされない。
興味深いのは申立書の記述が専門的な法律論に及んでおり、「将棋界に精通した優秀な弁護士がサポートしているに違いない」(前出・連盟関係者)とみられていることだ。