“その人らしさ”を描くには?
会ったことがない人物でも、その人が描かれた作品を見ると人柄が伝わってくることがある。外見的な特徴だけでなく内面も描き出した作品には、見るものの心を揺さぶる力がある。
●今にも動き出しそうな迫力
【東洲斎写楽『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』(1794年)】
江戸時代の歌舞伎役者が悪役を演じている姿が描かれている。目の回りが赤いのは、悪役を表わすための化粧。睨みつけるような険しい目つき、「への字」にした口元、ぐっと顔を前に突き出す様子などで悪役をわかりやすく表現しているが、鼻が長くてとがっているなど役者の顔の特徴も加わり、現代のアニメ表現にも通じる。
●髪も服もヨレヨレなのに、立派に見える不思議
【アングル『ルイ・フランソワ・ベルタンの肖像』(1832年)】
しわだらけの服で、一見だらしなく見える男性。だが、こちらを射るような鋭い眼差し、両膝をぐっとつかんだ両手の指の力強さ、背筋を伸ばしたたくましい姿から、エネルギッシュで情熱的な性格であることが垣間見える。
●堂々とした王妃と頼りない国王
【ゴヤ『カルロス4世とその家族』(1800年)】
スペイン国王一家を描いた作品。中央に堂々と立つのは王妃。部屋に差し込む光が顔やドレスに当たり、一家の中心人物であることを印象付ける。実際、国王の代わりにスペインの政治を動かしていたのは王妃とされ、中央の赤い服の子供の右に立つ弱々しい国王とは対照的だ。
●強い目力に秘められた強固な意志
【クリムト『メーダ・プリマフェージ』(1912~1913年)】
意志の強そうな表情で、両足を広げて立つのは9歳の少女。正面をまっすぐ見つめ、堂々としている。年齢に関係なく、自信に満ちたひとりの女性として描かれている。