大きく報じられた人やグループだけではなく、籠島さんのように、後日、経産省に「公表」されてしまった個人の不正受給者が現実には数多く存在している。彼らの多くは、自分の存在はニュースになっていないし、自分さえ黙っていればやり過ごせるだろうと思っていたはずだ。籠島さん自身、役所から不正受給の可能性を探る電話を受けた時でさえ「返せばいい」と甘く見ていたようだが、公表されてからというもの、大変な目に遭っているという。
「公表されることを聞き、なんとか名前を伏せて欲しいとお願いしましたがダメでした。実はちょうど就活のタイミングと被っていて、内定先にバレたらどうしよう、と気が気でなくなり、結局就職を諦め、学校もそのまま辞めました」(籠島さん)
自分のしたことが悪事だと突きつけられても、開き直れるような人だったら違っていたかもしれない。だが、そこまで厚かましい人間は希だし、籠島さんはもちろん普通の人なので、日常に身の置き所をなくしてしまった。そのために就職を諦めただけでなく、さらに踏んだり蹴ったりは続いたという。
「実は100万円のうち、60万円は受け取ったのですが、残りの40万円は先輩への手間賃などと言われて持って行かれているんです。なのに、国は100万円全額を返せと。先輩は既に不正給付で逮捕されて連絡がとれなくなり、手間賃を取り返すこともできません。親にお金を借りたりしてなんとか返しましたが、まだ名前は不正受給者として公表されたままになっています。最近やっとバイトを始めましたが、僕を知る人が誰もいない隣県まで行っています」(籠島さん)
不正受給者の「清算」は思った以上に険しいようだ。西日本在住の主婦・長原和恵さん(仮名・50代)は、身近な知人家族が不正受給によって崩壊するまでの一部始終を目撃した。
「近所の居酒屋さんなのですが、旦那さんが奥さんに黙って不正受給をやっていたらしく、それが去年の春にバレたそうなんです。旦那さんの名前はその後、経産省のサイトで公表されて、一気に街中に噂が広がりました(長原さん)
この居酒屋店主は、知人ら数人で不正に関与していたらしく、近隣の他の商店主の名前も公表リストに載っていたという。
「評判のいい居酒屋だったんですけどね、魔がさしたのか、よほど苦しかったのか。かわいそうに、ご家族は家を出て行って離れ離れになったそうですよ。不正受給していた近隣の商店主も、先祖代々受け継いできた店を閉店せざるを得なかった。たかだか100万円くらいで、全部パーですよ。仕方ないとはいえ、苦しかったとはいえ、あまり同情はできないですけど」(長原さん)