うつを巡る深刻な事態が進行する一方で、おかしな現象も出てきた。就業中はうつで仕事がろくにできないのに、会社を一歩出た途端に元気になる――今、こんな「新型うつ病」が職場で急増しているという。これが果たして本当に「病気」なのか、精神科医の間からも疑問の声があがり、「甘えているだけだ」との厳しい指摘もある。一方で、その風潮に便乗して「新型うつ病」を悪用する者まで現われた。
IT関連企業で働く40代の男性課長のもとに、突然、20代の男性部下Aが医師の診断書を持って現われた。
もともとAは他の社員と比べると仕事熱心とは言い難かった。仕事のスピードも遅い。それでも課長は、Aが仕事をこなすうちにやりがいを見つけてくれればと思い、根気よく指導をしていた。
「ところが、突然、うつ病の診断書ですよ。『日頃の激務から職場にいることが辛い。医者に診てもらったところ、うつ病と診断された』と言うのです。Aの同僚や先輩社員は同じように働いていて、別に激務だと訴えたりはしないのですが……。感じ方には個人差がありますし、精神科医の診断書もあるので、そういうものかなと思い、人事部と相談してAを休職させたんです」(課長)
ところが、休職してから半年ほどしたある日、部下の一人が友人の結婚式に出席したところ、式場でAそっくりのカメラマンが写真撮影をしていたという。ご丁寧に名札をつけていたため、見てみると『A』と書いてあった。
「その報告を受け、Aを会社に呼んで問い詰めると、週末だけカメラマンのアルバイトをしていることをあっさり認めたんです。頭に来て『うつ病で休んでいるのに、なんでアルバイトができるんだ!』と怒ったんですが、ぬけぬけと『医者からは休息が必要だと言われ、何か好きなことをやって気分を変えた方がいいと指導された。だから学生時代からの趣味のカメラをやっている』と言うんです」(課長)
Aは叱られてからすぐに「治った」と言い、今は職場復帰している。これがなんで「病気」だったのか、課長は今でもまったく理解できないと言う。
※SAPIO2012年8月1・8日号