コンビニ、スーパーなどでお馴染みとなったプライベートブランド(PB=自主企画)商品。メーカーのナショナルブランド(NB)品に比べて利幅が厚く、いま、他の小売業界でも切り札になりつつある。その一つが靴の販売を主とする専門店だ。いまこの業界では主に以下の3社がしのぎを削っている。
■チヨダ:「東京靴流通センター」や「シュープラザ」などの靴専門店を展開。店舗数は日本最大級の1122店(2012年2月現在)。売り上げ1540億円、経常利益113億円。新宿に次ぐ都市型旗艦店「シュープラザ」を今月、上野にオープンし、若者への訴求を強める。「ハイドロテック」シリーズなど、高機能紳士靴のPB商品には定評があり、2007年度に1割程度だったPB商品比率を、現在3割程度まで上昇させた。
■ABCマート:スニーカーやスポーツシューズをファッションの一部として定着させ、若い男性を中心に支持を得る。PB商品に関しては、商品の企画から製造、物流、販売までを一貫して自社で管理する製造小売り業態を採る。「Hawkins」や「VANS」、女性向けの「NUOVO」などが人気。676店舗(2012年5月現在)。売り上げ1407億、経常利益284億。売り上げに占めるPB比率は42~45%。
■ジーフット:「ASBee」「NUSTEP」などを展開するイオン系の靴専門店。家族向けの品揃えが充実。売り上げ921億、経常利益30億。現在20%に満たないPB商品比率を2014年1月期には35%にまで高め、今年から3年間で150店を新規出店する計画を打ち出す。
目を引くのは、約20%というABCマートの経常利益率の高さだ。これを実現している要因の一つが、40%を超える高いPB商品比率にある。
好調なのは、サンダルやパンプスといった女性向けPB商品と、ダンスシューズやランニング用のスニーカーなど、機能性を重視したPB商品だ。今年からダンスが中学校で必修になったことや、昨今のジョギングブームも追い風となっているという。10月に入り、新たに40代以上女性向けのPBシューズの販売も開始。これまで20代~30代男性が中心だった客層の拡大を狙い、電話での通信販売も始める。
そのABCマートの後を、他社も猛追する構えだ。PB商品競争激化の裏には、高い利益率を求めるだけではなく、国内外のメーカーブランドではできない“差別化”を図る狙いもあるようだ。あるベテラン販売員は「各店が店舗数を増やす中で、PB商品は、選ばれるために必須な商品になっている」と語る。
とある郊外のショッピングモールには、ABCマートと、ASBeeが別の階に店を構える。毎月買い物に訪れるという30代の男性は言う。「ナイキやアディダスといったメーカーの靴は、どこで買っても同じだし、結局、値段はそんなに変わらないわけです。じゃあどちらに行くか。どうしたって、オリジナル商品で選びますよね」
一方で、PB商品競争が激化すると、将来的には、それ以外の要因も重要になってくるとの見方もある。販売コンサルタントの成田直人氏は販売力の重要性とABCマートの優位性を説く。
「靴は、多くの人が試してから買うこともあり、販売員の対応に左右される部分が大きい。何を買うかも重要ですが、誰から買うかも無視できない。その点、ABCマートの販売力には目を見張るものがあります。1店舗あたりの販売員の数が他社に比べて多く、販売員同士の売り上げを競わせる仕組みもある。これらは高い利益率を支える要因にもなっています」
現段階では、PB商品力でも“販売力”でもABCマートが一歩リードしているようだが、競争の激化が勢力図を変えるか。
※売り上げ、経常利益はいずれも2012年度。