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原因わかっていない突発性難聴は特定疾患にも指定される難病

 都内商社に勤めるAさん(52)は5年前、取引先と商談している際に左耳に飛行機や高速エレベーターに乗っているような違和感を持った。
 
「気圧で耳が詰まって、物音がこもる感じ。その時は『疲れているのかな』と思ったが、帰宅してテレビを見ると右と左で聞こえ方が違ったんです。左耳は右耳の6割程度しか聞こえなかった」
 
 翌日になっても同様の症状が消えなかったため、仕事を早めに切り上げて耳鼻科を受診したAさん。聴覚検査の結果、医師から告げられた病名は「突発性難聴」だった。
 
 2001年の厚労省調査によると、突発性難聴の患者数は約3万5000人。最近は患者数の調査は行なわれていないが、慶応義塾大学医学部の小川郁教授(耳鼻咽喉科学)は次のように語る。
 
「この病気は、年齢を問わず発症するが、その発症数は30代後半~40代にかけ増え、50~60代が最も多い。そのことを考えると、高齢化が進み現在の患者数はもっと増えていると予測されます」
 
 突発性難聴とは読んで字の如く、「ある日突然、(通常)片方の耳が聞こえなくなる」という病気。その原因には諸説ある。
 
 風邪を引いた後や体調を崩した後に発症する人がいることから推測されるのが、ウイルス感染説。
 
「子供がおたふく風邪のウイルスで聴力が悪くなるというケースがあります。またウイルス性の内耳炎で急に聴力が落ちてしまうことや、ヘルペスウイルスによって顔面神経が侵されて顔が麻痺することもあります。これらと同様に耳の聞こえの神経が、何かしらのウイルスで障害を起こしているのではないかと推定されているのです」(小川氏)
 
 ただし、今のところ未知のウイルスは特定できておらず、患者の採血による感染検査でも証明されてはいないという。
 
 他に有力なのが内耳循環障害説だ。脳の血管が詰まれば脳梗塞、心臓の血管に循環障害が起きれば心筋梗塞や狭心症を発症する。耳やその周辺の血管が突然詰まる、あるいは細くなれば、血液の循環障害が起こり聴覚機能に“発作”が生じてもおかしくはないというわけだ。
 
 また、50~60代の患者の中には、仕事や家庭環境などのストレスから発症していると思われる事例も少なくない。
 
「ストレスを感じると血管を収縮させる作用を持つアドレナリンが出ます。そのため、ストレスを引き金に細くなった血管が障害を起こしているのではないかと考えられています」(小川氏)
 
 これらの説は可能性として推測されているだけで、原因に関しては詳しいことが分かっていないのが現状だ。それゆえに突発性難聴は、特定疾患にも指定されている難病なのである。

※週刊ポスト2012年12月7日号

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