国内

アドラー心理学は「ほめず、叱らず」 SNS社会の処方箋に

アドラー心理学を研究する哲学者・岸見一郎氏

「アドラー心理学」が注目を集めている。アドラーの思想を対話形式でまとめた『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健 著/ダイヤモンド社)は22万部を突破。本の帯には、人気作家・伊坂幸太郎氏が「最後にはなぜか泣いてしまいました」と言葉を寄せている。フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と称されながら、日本であまり知られることがなかったアドラーに、なぜいま、多くの人々が惹きつけられているのか。著者の岸見一郎氏に聞いた。

 * * *
――なぜ、アドラーが注目を集めているのでしょうか?

岸見:私は1989年にアドラーに出会いましたが、これまで、注目されることはほとんどありませんでした。ところがこの本が幸い大きな反響を呼んで、色んな方から手紙などをいただくようになっています。アドラーは「すべての悩みは対人関係の悩みである」と言っています。「空気を読む」「KY」などといった言葉が一般化し、SNSが広がり、人間関係が多様化しているいま、アドラーは新しい処方箋の一つになっているのかもしれません。

 ただ、アドラーは、決して意外なことを言っているわけではないのです。どちらかというと、多くの人がすでに知っているようなこと、疑問に感じているようなことを、言葉にしている。だから、驚きはあるけど、未体験の思想ではありません。アドラーを知ることは「腑に落ちる」体験であり、だからこそ重く残るのだと思います。

――アドラーの教えは、仰るように、見知らぬ概念ではないけれど、一般の常識を覆すようなところもあります。たとえばアドラーは「承認欲求」を否定します。いま、人に認めてもらえるよう頑張っている人も多いように思うのですが、なぜ否定するのでしょうか。

岸見:たとえばフェイスブックの「いいね」ボタンは、承認欲求の権化のようなものですね。私もフェイスブックを使っていますが、「いいね」をもらうために、人に迎合するような記事を書くのはおかしいと思う。あるいは、本当はいいねと思っていないのに、周囲に流されたり、書いた人に嫌われたくないと思って「いいね」ボタンを押すのもおかしい。人に認めてもらいたいという気持ちは当たり前の感情だ、と言う人もいますが、当たり前(=usual)だから正しい(=normal)とは限りません。みんなが言っているから正しい、というわけでは必ずしもないように。

 他人にヘンな人と言われたからといって、その人がヘンな人になるわけではありません。逆に、良い人と承認されたから良い人になるわけでもないでしょう。それなのに、他人の評価ばかりを気にしていると、他人の人生を生きることになってしまうのです。また、承認欲求は無責任にもつながります。承認欲求に沿って行動をしていると、上手くいかなくなったときに「親が言ったから」「上司が言ったから」と言い訳ができてしまうから。

 アドラーはただ「自分の信じる最善の道を選べ」といいます。それに対して他者がどんな評価を下そうと、それは自分にどうしようもないことで、自分の問題ではないと。そういう意味ではアドラー心理学は責任逃れを許さない、キツイ思想でもあるのです。「劇薬」と言われるゆえんです。

関連記事

トピックス

エンゼルス時代、チームメートとのコミュニケーションのためポーカーに参加していたことも(写真/AFP=時事)
《水原一平容疑者「違法賭博の入り口」だったのか》大谷翔平も参加していたエンゼルス“ベンチ裏ポーカー”の実態 「大谷はビギナーズラックで勝っていた」
週刊ポスト
グラビアから女優までこなすマルチタレントとして一世を風靡した安田美沙子(本人インスタグラム)
《過去に独立トラブルの安田美沙子》前事務所ホームページから「訴訟が係属中」メッセージが3年ぶりに削除されていた【双方を直撃】
NEWSポストセブン
中条きよし氏、トラブルの真相は?(時事通信フォト)
【スクープ全文公開】中条きよし参院議員が“闇金顔負け”の年利60%の高利貸し、出資法違反の重大疑惑 直撃には「貸しましたよ。もちろん」
週刊ポスト
阿部詩は過度に着飾らず、“自分らしさ”を表現する服装が上手との見方も(本人のインスタグラムより)
柔道・阿部詩、メディア露出が増えてファッションへの意識が変化 インスタのフォロワー30万人超えで「モデルでも金」に期待
週刊ポスト
昨秋からはオーストラリアを拠点に練習を重ねてきた池江璃花子(時事通信フォト)
【パリ五輪でのメダル獲得に向けて】池江璃花子、オーストラリア生活を支える相方は元“長友佑都の専属シェフ”
週刊ポスト
店を出て並んで歩く小林(右)と小梅
【支払いは割り勘】小林薫、22才年下妻との仲良しディナー姿 「多く払った方が、家事休みね~」家事と育児は分担
女性セブン
大の里
新三役・大の里を待つ試練 元・嘉風の中村親方独立で懸念される「監視の目がなくなる問題」
NEWSポストセブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
「特定抗争指定暴力団」に指定する標章を、山口組総本部に貼る兵庫県警の捜査員。2020年1月(時事通信フォト)
《山口組新報にみる最新ヤクザ事情》「川柳」にみる取り締まり強化への嘆き 政治をネタに「政治家の 使用者責任 何処へと」
NEWSポストセブン
愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
NEWSポストセブン