アドラー心理学のエッセンスをまとめた『嫌われる勇気』は22万部を突破


――アドラーはまた、「ほめること」と「叱ること」を否定しています。叱るはともかく、ほめるは、教育に必要な要素にも思えるのですが。

岸見:この問題も、承認欲求の否定と深くかかわっています。実は私がアドラーの勉強を始めたのは、子育てがきっかけでした。最初に「ほめてはいけない」と知ったときには驚きました。でも実践していくと、その意味や重要性を実感するようになりました。

 例えば、ほめられて育った子供は、学校の廊下のごみを拾う前に、周りを見渡します。人がいたら拾う、いなければ拾わない。つまり、他者にほめられるかどうかが、その子供の行動基準になってしまっているわけです。人の顔色をうかがったり、依存的であったりするという傾向もみられます。長じては他人の承認を求めるようになるでしょう。叱られて育った子供も――親の対応は両極端であるのに――同じようになりがちです。同様に職場においても、上司が部下をほめたり叱ったりすると、上司の顔色ばかりを窺うようになる。

 そもそも「ほめる」「叱る」というのは、対等な人間関係の間には起こりえないことです。どちらも、上の人が下の人に向かって、もっと言えば、能力のある人が能力のない人に向かって下す評価だからです。アドラーは「タテ」の人間関係を否定し、「ヨコ」の人間関係に変えていくべきだと言っています。

――では「ほめる」「叱る」ではない言葉とはなんでしょうか。

岸見:こんな状況を思い浮かべてみてください。私のところにカウンセリングにきたお母さんが、3歳の子供を連れてきました。その子供はぐずることなく、1時間、静かに椅子に座っていました。カウンセリングが終わった後、お母さんは子供に何と声をかけるべきでしょう。

――「良い子にしていてえらかったわね」では、ほめることになってしまいますよね……。対等な人間関係だと、「お疲れさま」でしょうか。

岸見:私だったら「待っていてくれてありがとう」と声をかけます。ほめるのではなくて、「貢献」に注目する言葉を使うのです。人は、感謝の言葉を聞いたとき、自らが他者に貢献できたことを知ります。アドラー心理学では、この「貢献」を非常に重く考えます。

――なぜ「貢献」が大事なのでしょうか。

岸見:「私は誰かの役に立っているという実感」が、自らの価値につながるからです。自分に価値があると思えている人は、人生のさまざまな課題に立ち向かうことができます。他者からの承認ではなく、貢献感こそが、人を強くし、人に勇気を与えるのです。

■プロフィール 岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの「青年」のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』『人はなぜ神経症になるのか』、著書に『アドラー心理学入門』など多数。『嫌われる勇気』では原案を担当。

■撮影/山崎力夫

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
女性セブン
山下智久と赤西仁。赤西は昨年末、離婚も公表した
山下智久が赤西仁らに続いてCM出演へ 元ジャニーズの連続起用に「一括りにされているみたい」とモヤモヤ、過去には“絶交”事件も 
女性セブン
日本、メジャーで活躍した松井秀喜氏(時事通信フォト)
【水原一平騒動も対照的】松井秀喜と全く違う「大谷翔平の生き方」結婚相手・真美子さんの公開や「通訳」をめぐる大きな違い
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン