「討死」や「謀殺」、「自決」によって英雄の最期はドラマチックに語り継がれるが、「病」に苦しみ、「病」と闘い、「病」に斃れた歴史上の人物の悩みはあまり知られていない。足利尊氏公(1305~1358年。享年52)の死因は何だったのか?
鎌倉幕府を滅亡に追い込んだ室町幕府の初代征夷大将軍。尊氏は南北朝時代の歴史書『梅松論』に「戦場では命の危険をおそれず笑いながら勇猛に戦った」との記述があるほどの猛将で、幕府創設後も多くの戦いに赴いた。
だが1358年、対立していた弟・直義の残党との戦いの最中、矢傷によって細菌感染。背中にできた腫れものが悪化し、敗血症を引き起こしたとされる。死を恐れない猛将も細菌には勝てなかった。
※病名などについては『戦国武将の死亡診断書』(酒井シヅ監修/エクスナレッジ刊)などを参考に記したが、病名や死因については諸説ある。生年・没年については『コンサイス日本人名事典』(第4版/三省堂)などを参考にした。享年は満年齢を基本としたが、出生・死亡日が不祥のものは数え年で表記したケースもある。
■監修/酒井シヅ(順天堂大学名誉教授)
※SAPIO2016年6月号