7月15日夜、トルコ軍の一部部隊が叛乱を起こし、クーデターを企てた。結局、叛乱は、エルドアン大統領と正規軍によって鎮圧されたが、その混乱はさらなる悪夢を呼び込むのか。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏がレポートする。
* * *
エルドアン大統領にとって、当面はトルコ国内での権力基盤の安定化が課題になる。そのために、国内的にはクルド人の分離独立運動に対する締め付けが強化されるであろう。
これに対して、対外関係については、戦線の縮小を余儀なくされる。まず、シリアのアサド政権との関係を正常化していくであろう。当初、トルコは、シリアのアサド政権が弱体化していく過程で、その空白を埋めるべくシリアへの干渉を強めていた。
しかし、イランとロシアが本格的な梃子入れをしたことによってシリア正規軍が強化された。そのため、シリア国内でトルコが支援する武装勢力の影響力が低下している。
エルドアン政権としては、今回のクーデター未遂事件をきっかけに「損切り」をして、シリア国内における武装勢力に対する支援を止め、アサド政権との国交正常化交渉に取り組むと思う。
過激派「イスラム国」(IS)に対して、トルコは、曖昧政策を取り続けるであろう。ISは世俗主義国家であるトルコを敵視している。
ただし、トルコのイスラム教は、ISと同じスンナ派に属する。ISにとっての主敵はシーア派で、具体的にはイラクのシーア派勢力とイランが敵になる。ISは宗派主義的体質が強いので、イランとは非和解的な戦闘を展開している。
この状況を本音ではトルコは歓迎している。なぜなら、シリアとイラクをシーア派が支配し、その結果、同地におけるイランの影響が圧倒的に強くなるよりも、現状の程度の影響力ならばスンナ派のISが残った方がトルコにとっては好都合だからだ。