少し大きめの荷物を持っていても、ターミナル駅かその近くなら預けるコインロッカーがあるはず。ところが、空きロッカーがなく、スマホで預けられる場所を探しても見つからず途方にくれる。そんな体験をした人も少なくないだろう。とくに最近は、大きな荷物を転がすロッカー難民となって、街を歩く人の姿も目立つ。難民状態解消の助けになりそうな、ネット予約できる荷物一時預かりサービスが出現しつつある。
年末年始の12月23日~1月3日に、インターネットで予約できる「手荷物サービス」が東京駅で実施された。サービス内容は「手荷物一時預かり(※宅配受付も実施)」、「手荷物搬送(ポーター)」「駅弁・手土産予約&おまとめ渡し」の3種類だったが、ほとんどが手荷物一時預かりの利用だった。
「期間中、手荷物一時預かりだけで約5千件の利用がありました。行った先ですぐ預けられるので、ご利用が多かったのではないでしょうか。初めての試みだったインターネット予約は、全体の2%でした。何しろ初めてのことだったので、この利用率についての評価はまだできていません。利用されたお客様からは便利だと好評の声を多くいただいていますが、今のところ同様のサービスを今後も実施するかどうかは未定です」(JR東日本広報部)
期間限定ではないサービスも1月18日に始まった。カフェやレンタルサイクルなど既存の店舗で、営業時間内に荷物の一時預かりを受け入れる「ecbo cloak(エクボクローク)」だ。
一時預かりを受け入れている店舗のひとつ、IZA着物レンタル浅草店は、地下鉄浅草駅を出てすぐの場所にある。駅の地上出口そばにコインロッカーもあるが、朝10時台にはすでにロッカーがふさがっていた。同店の場所は外国人に人気の観光地ということもあり、今のところ利用者は訪日観光客が続いていると、店員の山本奈芳美さんはいう。
「予約が入るとメールで日時と荷物の数の連絡がきます。当日の朝に予約が入ることもありますね。外国からのお客様の場合、時間についてはかなりゆるやかに考える方が多いので、30分も早くいらしたり、1時間遅れても驚かなくなりました。荷物一時預かりサービスをしていることがもっと広まって、着物レンタルのついでに預けてくださるお客様が増えてほしいと思っています」
預かるときは店舗側で荷物の写真を撮り、その写真を持ち主とecbo cloakの管理画面で共有する。そして、その画像を確認しながら受け取り手続きをする。完全予約制なので、店舗のキャパシティを超える予約は入らない。また、昨年秋に同社が行ったサービステストの結果、利用者の約30%が店舗側のサービスを利用することがわかっている。店舗側にとっても、軒を貸すことで効果のあるプロモーションを期待できる。
ブラウザさえ使えればスマホ、タブレット、PCのどれでも予約ができるecbo cloakは、同サービスを運営するecbo株式会社の工藤慎一代表取締役が、渋谷で訪日外国人のコインロッカー探しを手伝った体験をもとに始まった。尋ねられたときには「スマホでググれば見つかるだろう」と思って気軽に引き受け、一緒に探したのだが、スマホでは解決せず、ネットでは情報公開されていない荷物預かり所を見つけるまで40分、街を歩き回ることになった。
「あとでわかったことなのですが、渋谷にはスーツケースを入れられる大きさのコインロッカーが100もありません。預けられるところを見つけることはできましたが、それはスマホを持っていても探せないところでした。東京で暮らして、渋谷によく行く自分でも40分もかかるのに、たまに訪れた人には見つけられない。初めて訪れる人にも便利な荷物一時預かりサービスができないだろうかと考えました」(前出・工藤氏)
思い浮かんだのは、2015年の会社設立時から始めていたオンデマンド収納サービスと、Uber Japanでのインターン経験を生かした荷物一時預かりのシェアリングサービス。預かる荷物についてはスーツケースばかりが念頭にあったが、実際にサービスを開始すると様々なニーズがあることに驚かされた。
「もちろんスーツケースも多いのですが、ベビーカーや買い物袋、最近はスノーボードやスキー板をお預かりすることが多いです。いまは預かった日にお返しするサービスしかないのですが、箱根や富士山などへ小さいカバンで行きたいので、それ以外の荷物を2、3日預かってもらいたいという要望もあるなど、色々なニーズがあることがわかってきました。今後はサービスエリアはもちろん、配送など内容も拡充していく予定です」(前出・工藤氏)
ecbo cloakは日本語だけでなく英語、中国語(簡体字、繁体字)、韓国語に対応しているため、訪日外国人の利用が急増中だ。とくに、利用イメージを表現したプロモーションビデオが盛んにシェアされた香港や台湾からの反響が大きい。さらに、近く、京都など外国人観光客に人気が高い観光地が多い関西圏でも、ecbo cloakのサービスが始まる予定だ。
痒いところに手が届くecbo cloakだが、日常の不便なことを解決するのに、ベンチャー企業は向いているのだと工藤氏はいう。
「ITベンチャー企業というと流行の分野に参入するイメージが一般的には強いですが、本当は、社会課題を、今までにない方法で解決するフットワークのよさに強みがあると思っています。スマホを持っているのに問題の解決に役立たない、なんてもったいないですよ」
現在、観光庁は手ぶら観光支援サービスを推進、整備・機能強化等の補助事業も展開しており、そのひとつとして荷物一時預かりサービスも拡大中だ。大手運送会社や鉄道各社、百貨店などが参画し、2020年東京五輪を目指して急ピッチですすめられている。しかし、専用の店舗やカウンターを設置せねばならないため、計画してから実施までにどうしても時間がかかる。また、ネット予約には対応していない。
世界中、どこへ行ってもスマホとネットを頼りに歩くことが増えた。ガイドブックも地図も、紙や本からスマホに置き換わった人がほとんどだろう。ならば、荷物一時預かりのようにスマホとネットで便利に使えるサービスが増えてゆくことになりそうだ。