これまで400以上の作品を発表し、数々の人気作品を生み出してきた絵本作家の五味太郎さんと、原作者として絵本を手掛けている女優の室井滋さん。この2人の初めての対談が実現した。五味さんの絵本のテーマは、どのようにして決まるのか? 室井さんが迫る。
室井:絵本は画と文がセットになって1つの作品だから、五味さんのようにご自分で両方を手がけて、作品を発表し続けていらっしゃることにすごいなぁって尊敬します。代表作の『きんぎょが にげた』だって、初版から40年以上経つのに、今も子供たちが読んでいますもんね。作品のテーマはどうやってお決めになるんですか?
五味:自分が表現したいと思うものを描いてるだけ。子供に伝えたいメッセージなんて特にないし、俺が作った絵本をどう捉えるかは読み手の自由。自分が楽しいものを作っていたら、偶然にも感覚が一致して、面白いって言ってくれる人がたくさんいるってことだよね。
室井:それもフランス、韓国、アメリカ……海外25か国以上で翻訳されているとか。
五味:国や文化が違っても関係ないんだよね。誰かに合わせて作ろうとしないからこそ、これだけ長く続けていられるんだと思う。
室井:言われてみれば、私もただただ楽しくて絵本を書いてますね。説教臭くならない程度に、自分が経験したことや、社会の出来事をうっすらと反映できればいいとは思ってはいるけど、個人的な思いを詰め込んでます。
五味:そもそも「子供のためになる絵本」という考え方自体が、間違ってる。「子供には何を読ませれば賢くなりますか」とか「情緒豊かに育ちますか」ってよく聞かれるけど、そんな本はないよ。詐欺だよね(笑い)。俺自身、子供のときに本なんて読まなかったから。
子供ってさ、面白いと思うと自分で手紙を書いてきたり、電話をかけてきたりするの。昔、小学校1年生の女の子が「五味さん、絵を頑張ってね」って書いてきたことがあったな。「庭に咲いているお花がきれいだから、見に来てください」なんていうのも、びっくりだよ。
室井:素直でいいなあ。私は小学校3年生くらいの男の子から「ぼくは室井さんが好きで、将来結婚したいです」ってファンレターをもらったことがあります(笑い)。
話は変わりますが、五味さんは完成したときに、今度のは売れそうだぞ、なんて予感がしたりなさるんですか?
五味:そんなのわかんないよ。作っている途中で満足がいく作品に仕上がって、“今回は面白いものができる”と思うことはある。でもそういうのに限って、あんまり売れない(笑い)。
室井:五味さんほどの巨匠でもそういうものですか。
五味:そうだよ。まあ、これだけやってれば、いろんなパターンも経験するね。出した瞬間はすごく売れたけど、その後はパッタリ売れなくなる絵本もあれば、5年くらいサッパリだったのが、急にポツポツと火がついて人気が出るとか。本って生き物だから、さっきの尿瓶の話(※)もそうだけど、何が売れるかなんて誰にもわからない。だからこそ絵本作りは面白いと思うし、そもそも売れるものを書こうと思わない。
【※/室井さんが尿瓶をテーマにした絵本を作ろうと提案したものの、編集者に却下されたという話】