1963年に誕生した絵本『ぐりとぐら』(福音館書店)は、青と赤のつなぎと帽子がトレードマークのふたごの野ねずみ「ぐり」と「ぐら」を主人公にした大人気シリーズ。この絵を担当した山脇百合子さんは2022年9月29日、シェーグレン症候群【※】による衰弱のため亡くなった。
【※シェーグレン症候群とは、涙腺や唾液腺などを中心に炎症を起こす慢性自己免疫疾患。40〜60代の女性に多くみられる】
同作の文章は、当時、東京で保育士をしていた児童文学者の中川李枝子さん(87才)が手がけた。絵本『ちびくろ・さんぼ』に登場するホットケーキよりもっと上等でおいしいものを子供たちにごちそうしようと、巨大な卵を使ったカステラが出てくる話を思いつき、7才年下で当時高校の美術部員だった妹の山脇さんに挿絵を依頼したところから、姉妹での絵本作りが始まったという。
担当編集の関根里江さん(56才)は、山脇さんの作品作りに対するこだわりをこう話す。
「主人公の野ねずみは、国立科学博物館にあったオレンジ色のねずみの標本がヒントになっているそうです。何もないところから想像で描くのではなく、資料をたくさん集め、スケッチを重ね、作品に合うものを選んでいったのです」
鉛筆を使って何度も線を引き、消し、また線を引く。これを繰り返して最良の線を選んでいく。
「清書をして仕上げても、画用紙には消した鉛筆の跡が残っている。この試行錯誤の様子がわかる作画スタイルは、デビュー当時の原画も、最後の作品でも変わりませんでした」(関根さん・以下同)
ほかの作家の作品の挿絵を描くこともあったが、必ず文章をじっくり読み、おもしろいかどうかを重視していた。また、子供が楽しめるかどうかが判断基準だった。
「小さいときから本好きの文学少女だったそうです。フランス語も勉強していて、大学ではフランス語を専攻し、後にはフランス語の翻訳も手がけていらっしゃいます」
『ぐりとぐら』をはじめ、山脇さんの絵は、どことなく洗練されたフランス文化の香りが漂い、いつ見ても、決して色あせることがない。線には温かみがあり、幸せ感が漂ってくる。
「お見舞いに伺うと、『こんな絵を描いてみたの』と見せてくださいました。次の作品を担当できなかったのは寂しいですが、きっと天国でも本を読み、絵を描いている気がします」
【プロフィール】
関根里江さん/福音館書店編集者。『ぐりとぐら』シリーズが生まれた月刊絵本『こどものとも』の編集長。山脇さんの作品の編集を担当。
取材・文/山下和恵
※女性セブン2023年1月5・12日号