左利きは短命──そんな「定説」を聞いたことはないだろうか。きっかけは1991年だ。米国とカナダの研究グループが南カリフォルニアの死亡者987人を調べたところ、右利きが平均75歳だったのに対し、左利きは66歳と9歳も寿命が短かった。男女別では、男性が10歳、女性が5歳左利きが短命だった。
死因を見ると右利きの事故死1.5%に対し、左利きは7.9%。自動車事故は左利きが3.8倍ほど多かったとしている。
それから30年以上にわたって囁かれた「左利き短命説」だが、現代では専門家の間で懐疑的な見方が広がる。
『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)の著者で、加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳医師が語る。
「最近になって行なわれたアメリカに住む3774人の高齢者を対象にした6年間の追跡研究で、左利きは死亡率と関連しないことが示されるなど、左利き短命説は学術的に否定されています」
現在では、むしろ左利きはメリットが大きいという説がある。なかでも注目は認知症との関連だ。米国でアルツハイマー病の研究に従事した脳内科医である加藤医師は自著のなかで、「左利きが認知症になりにくい可能性」に言及して注目を集めた。カギを握るのは利き手と脳の関係だという。
「人は体を動かす時、左半身は右脳、右半身は左脳が指令を出します。利き手を使うことで左利きは右脳を、右利きは左脳を刺激して発達させる。
しかし、駅の自動改札しかり世の中は圧倒的に右利き仕様のため、左利きの人は自然と右手と左手をバランスよく使っている。このため右手しか使わない右利きより、左利きは左右の脳をバランスよく刺激して脳を衰えさせず、認知症になりにくくなる可能性があるのです」(加藤医師)
短命と囁かれた左利きの逆襲が始まった。
※週刊ポスト2023年1月13・20日号