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メリル・ストリープ 認知症のサッチャーへの映画批判に反論

サッチャーについて語るメリル・ストリープ

 サッチャーの実娘キャロルの回顧録を元にした『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(公開中)は、認知症をわずらった80代のサッチャーが、自らの半生を振り返るという構成になっている。政治家としての成功と、失脚だけでなく、夫デニスとの出会いと結婚や家庭生活といったこれまでベールに包まれていた私生活を描くことで、サッチャーの人間性を描こうとしている。存命中の元首相のプライベートを描くことは、本国イギリスでは、物議を醸し出した。サッチャー役で主演したメリル・ストリープ(62)はどう考えているのか、当サイトがインタビューした。

* * *
――映画では、認知症を患ったサッチャーが、夫が亡くなっていることも忘れてしまっている…といった描写が英国では批判の対象になっていますが。
メリル:批判されていることは知っていますよ。でも、私は、認知症を患ったことを描写したことを、まるで恥部を描いたようにいう人たちのほうこそ問題視すべきではないかと思います。私の両親は80代ですが、ふたりとも認知症を患っています。でも、私は両親のことを恥ずかしいと思ったことはありませんし、彼らを人目につかないようにすべきだとも思ったことは一度もありません。思うに、認知症はサッチャーの人生の一部なのです。たとえば、彼女が肺に疾患があったとして、私が映画中で咳をすることでそれを表現しても誰も批判したりしないでしょう?

ところが認知症は、精神的なことであるから、“そんなことを描写すべきでない”と恐れるのです。要するに、自分の人生観次第ということね。私は、彼女の真実を描くことに興味があったんです。彼女を貶めようとも、反対に美化して持ち上げようとも思っていませんでした。

――認知症については、関心がありますか。
メリル:ありますよ。両親のこともあり、日常的によく考えます。高齢化もあるのかもしれませんが、認知症は、年々増えているのではないかしら。昨日、娘が居間にいる私のところに来て、“いま、何をとり来たのか忘れちゃったわ”というんです。彼女は、まだ25才。私は、“あなたも40年もすれば、そういうことを一日に何回も経験するようになるの”っていったのです。

――サッチャーは、過去を回想しながら、反省したり後悔したりしているようにも見えますね。
メリル:彼女は、自分に対しても批判的な人なのじゃないかしら。自分自身にも高い水準を求める。でも、自伝を読む限り、自分の人生には、かなり満足しているように感じますね。でも、政治家として成功したかどうかは、歴史評論家に任せておくつもりです。

――最終的に権力を失ったことは、不幸ではない?
メリル:権力を失うことは、自分の人間性に直面するということ。私たちは皆、人生の終わりには暗い廊下にやってくる。そして、それまで選択してきたことに対して、ある種の報いを受けるのです。なかには誇りに思うこともあるでしょう。後悔することもあるでしょう。これは、そういう私たちが毎日迫られる“選択”をテーマにしている映画ともいえますね。

――サッチャーとは、面会していないそうですが、もし、質問できるとしたら、どんなことを聞きたいですか?
メリル:1990年代初頭、権力の座から失脚したときには周囲の仕打ちに相当の怒りを感じていたと思うけれど、現在、その意見は変わったかどうか。また、いまのヨーロッパをどう見ているのか、聞いてみたいですね。

取材・文■立田敦子

『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
”鉄の女”のニックネームにふさわしく、強く、厳しいリーダーといわれる元英国首相マーガレット・サッチャー。フォークランド紛争での勝利、労働組合制度の改革、低迷する経済の立て直し、3度の総選挙を乗り切り、一時は73%の支持率を誇り、英国の、いや世界の歴史に名を残したリーダーだ。そんな彼女にも、妻、そして母としての顔があり、老いが訪れていた――認知症を患い、時には夫がすでに他界したことも忘れるようになった晩年、サッチャーは自分の過去を振り返る。TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー.

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