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はやぶさ技術開発者 ジョブズは米国では特異な存在ではない

 日本が閉塞感に覆われていると言われて久しい。海外に出て経験を積もうとする若者は減っており、才能のある若い経営者も生まれない。現状を打破するためにはどうすればいいのか?

 地球重力圏外の天体からサンプル採取をして帰還するという世界初の偉業を成し遂げ、映画化作品が続々公開されている小惑星探査機「はやぶさ」。そこに搭載されたOS(オペレーティング・システム)、「ITRON」の開発者であり、世界的に業績を認められた科学者の坂村健・東京大学大学院情報学環教授に、作家・国際ジャーナリストの落合信彦氏が、日本が暗闇から抜け出す術を聞いた。

落合:成熟ではなく衰退へ向かっている。つまり、日本は世界から取り残されつつあります。アメリカでCIAが2000年に作成したレポートがあります。そこには「2015年までに日本が先進国から脱落する」と書かれている。最近のニュースを見ていると、レポートが現実味を帯びてきてしまっています。日本はもう20年以上、デフレ不況のままです。

坂村:その間、日本社会は変わらなかったですよね。対照的にアメリカという国の力の源は、きちんと代謝があるという点なんです。IT業界などは顕著で、IBMが落ちてきたら、マイクロソフト。その次はグーグルやアップル、そしてフェイスブック。どんどん代謝していきますよね。そういうパワーが日本にはなくて、支配している会社が変わらない。

落合:新聞の一面に出てくる企業名はトヨタやパナソニック。10年、20年前と変わっていません。青春時代に売れた役者が歳をとったのに、まだ同じような役で映画に出ているようなものです(笑)。しかし歴史を振り返れば明らかだが、一度成功したものが成功し続けるということはあり得ない。あらゆる“帝国”には終わりがくる。国家で言えばイギリスが200年、あのローマ帝国でも500年でした。

坂村:日本は変化を受容するオープンでダイナミックな社会になっていない。「なぜ日本にスティーブ・ジョブズのような経営者が出てこないのか?」という話題がありますが、まず、ジョブズはアメリカでは決して特異な存在ではないと認識する必要があるでしょう。

落合:古くはコーネリアス・ヴァンダービルト、ロックフェラー1世から、ヘンリー・フォード、ビル・ゲイツまで。挙げればきりがありませんよ。

坂村:そうした人たちが次々に出てくる。日本だってそういう意味では、緊張感があった戦後の混乱期なんかには例えば本田宗一郎さんのような人が出ています。当時は必死になって戦う気力があった。その後、アメリカはいまだに戦い続けていて、競争も激しい。日本は安定してしまって、世界のスピードから取り残されています。人材の流動性も小さい。大きな会社に入ると、みんな辞めないでしょう。

落合:就職先で一番人気は絶対にクビにならない公務員ですからね。これはちょっと異常で、まさにギリシャへの道ですよ。いい加減、意識を変えなければ国が滅びます。

 為替が少し円安に戻っていますが、これにしたって日本人が何かを変えたからじゃない。マーケットが主導で、日本人の力でなしえたものじゃない。それじゃあ円安にしたって、続くかどうかわかったものではありません。

坂村:まさに、日本の閉塞感の象徴です。日本の力で円高になったとか、円安になったんじゃない。全部海外の動きが原因で、これはストレスがたまります。

落合:つまり、この国はいまだに全てが“黒船的”なんですよ。

坂村:そうです。これまではまだ、それでもよかった。黒船のような外圧が、日本に重要な変化を与えてきました。しかし、最近は世界のスピード感に対して、日本の感覚が遅れすぎている。フェイスブックがいい例ですが、ハーバードの学生が会社を創って、3~4年後には創業者が世界有数のカネ持ちになるなんて、日本ではちょっとあり得ない。

 ベンチャーを大きくしようとすればマンパワーが必要です。でも優秀な人は大企業が囲い込んでしまっている。スピード感もダイナミズムもない。現状の安定にこだわっていては、日本版のジョブズもザッカーバーグも生まれません。

※SAPIO2012年4月25日号

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