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原発報道 媒体や書き手の名前に惑わされるなと毎日記者指摘

「原発事故について、正しい情報を身につけて欲しい」。毎日新聞元科学環境部部長の斗ヶ沢秀俊さんのツイートが話題である。科学的に不確かな記事であれば自分の会社の記事にでも辛辣に斬り込み、データを地道に伝え続ける科学記者としての姿勢に共感を持つ人も多い。今回は原発事故関連で、ターニングポイントになったある記者会見の裏側について聞く。(聞き手=ノンフィクション・ライター神田憲行)

 * * *
斗ヶ沢 原発事故関連のニュースでは、毎日新聞も含めて疑わしい記事があります。読者にはニュースの真贋を見極める「目」を持って欲しい。

――そのためにはどうすればいいのですか。

斗ヶ沢 媒体の名前や書き手の肩書きに惑わされずに、その記事が確かなデータと論理に基づいているか考える、ということです。

――たしかに私がツイッターで見たなかでも、「国立大学教授」の肩書きを持ちながら、扇情的な言葉で不安を煽ってばかりの人もいました。

斗ヶ沢  地震発生直後はまだ冷静な報道がありました。ターニングポイントが昨年4月29日の小佐古敏荘内閣参与の「涙の辞職記者会見」です。

――福島県の小学校等の校庭利用の線量基準が年間20mSV(ミリシーベルト)に設定されたことが、「学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたい」と泣きながら批判して参与を辞任した記者会見ですね。

斗ヶ沢 小佐古氏は「原爆症認定訴訟」では国側の証人として証言し、東京電力主催のセミナーでも講演されている。ばりばりの原子力推進派であったのに、記者会見では全くそういうことに触れない。これは倫理的に許されないことです。また、記者会見前の3月28日付けで食品安全委員長あてに出した提言では、ヨウ素131の規制値を暫定規制値の300ベクレルから3000ベクレルに引き上げるべきだと受け取れる主張をしている。放射性物質の規制値を緩和する提言をした人が、なぜ立場を変えたのか、その説明もありません。そんなひどい会見でしたが、涙のインパクトは大きく、以降、「年間線量は20mSVでも危ない、1mSVを目指せ」という雰囲気が一気に醸成され、地域住民に不安を抱かせることにつながりました。福島県の子どもたちは外で十分に遊ぶことができなくなった。私は小佐古氏の会見は無責任で許し難い行為だと今も怒りを禁じ得ません。

――小佐古さんについて、そのように指摘する記事はありますか。

斗ヶ沢 毎日新聞を含めて、残念ながら私の知る限りありません。

――なぜないのでしょうか

斗ヶ沢 記者の勉強不足、反射神経の鈍さだと思います。小佐古氏があんなふうに泣きながら記者会見したところで、彼の人物に興味を持つべきでした。ただし、取材を試みたが、応じてもらえなかったという理由もあるかもしれません。私自身、東京大学に問い合わせをして、その指示に従って小佐古研究室に取材申し込みをメールで送りましたが、なしのつぶてでした。

〈斗ヶ沢秀俊さんプロフィール〉とがさわ・ひでとし。1957年北海道生まれ、東北大理学部物理学科卒後、毎日新聞社に入社し、福島支局長、科学環境部部長などを経た後に、現在は同社「水と緑の地球環境本部」本部長兼編集委員。ツイッターアカウントは@hidetoga


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