イギリスの経済誌『エコノミスト』編集部がまとめた『2050年の世界』(文藝春秋刊)が、発売1か月で4万部を超え、ベストセラーになっている。世界で最も悲惨な2050年を迎えるのは「超々高齢化社会」に苦しむ日本だ。
日本政府にとって大きな悩みの種になるのが、社会保障費支出の激増だが、財政だけでなく、2050年の日本は民主主義の根幹さえ問われることになる。
近未来にはソーシャル・ネットワークが目覚ましく発展すると見られるが、それは政治体制にも多大な影響を与える。ブログやSNSなどのソーシャル・メディアを使えば誰もが自由に意見を表明することができるので、こうしたメディアでのコミュニケーションをきっかけにした大きな政治運動が起こり得る。これは北アフリカや中東で起きた民主化運動がツイッターやフェイスブックを通じて広がっていったことからもわかる。
同書も、〈動きの鈍い独裁政権の官僚組織を出し抜くとき、ツイッターやフェイスブックはすばらしいツールとなる〉と評価する。だが、このような効果はまだ民主主義が定着していない地域にのみ有効なのだというのが同書の分析だ。
すでに民主主義が確立された日本や欧米では、ツイッターやSNSはより既得権益層を増長させる方向に作用し、民主主義さえ後退させてしまうと主張する。要するに、先進国の既得権益層はソーシャル・ネットワークを思い通りにコントロールすることができるので、今まで以上に簡単に民意を誘導できるようになるというのだ。
また、政治・行政学が専門の後(うしろ)房雄・名古屋大学教授はこうした危惧を抱く。
「情報ツールが進化すると多様な民意が可視化されることになる。これは政治家にとっては汲むべき民意が氾濫することを意味します。その結果、為政者が世論に影響されまくってポピュリズムに陥り、統治が成り立たなくなる危険性がある。
何かひとつの政策を決めるのに、いちいち“国民投票をしよう”と言い出す政治家が出てきかねません。口々に思い思いの主張を繰り返して意思決定が上手くいかない民主党政権は、未来の日本の政治を暗示しているのかもしれません」
※週刊ポスト2012年9月21・28日号