ビジネス

ユニクロへのブラック企業批判 「良業績で標的に」と関係者

 若者を中心に「ブラック企業」という言葉が急速に普及した。〈従業員に劣悪な環境で労働を強いる企業〉といった意味合いで使われ、ネット上では多くの企業が「ブラック」と名指しされる。就活生は必死でそうした書き込みを探し、メディアでは「ブラック企業批判」の大合唱が巻き起こっている。もちろん違法行為は許されない。しかし、単に企業名を晒し、「悪」だと糾弾すれば問題は解決するのだろうか? ジャーナリストの伊藤博敏氏がリポートする。

 * * *
 現在、ブラック企業批判の矢面に立たされている中の一社が、ユニクロなどを傘下に持つファーストリテイリングだ。『週刊東洋経済』(3月9日号)は、「ユニクロ 疲弊する職場」という特集を9ページにわたって展開。

「ブラック企業」という表現こそなかったが、「サービス残業が常態化、うつ病の罹患率も高い」「新卒社員の3年内離職率は5割超」といった実態が報じられた。元社員の証言などを軸に、同社がブラック企業的な要素を持っているとして紹介されたのだ。業界関係者はこう言う。

「ファーストリテイリング社内でも『ブラック企業批判』は深刻に受け止められている。社内では既にトップダウンで、サービス残業や体罰といった違法性のある点はもちろん、言葉の暴力や離職率が高い職場環境についても実態と原因を把握し、人事制度改革に着手しようとしている」

 改めるべき点を改めるのは当然かもしれないが、この関係者はこんな言い方もした。

「とはいえ、サービス残業や長時間労働なんてどこの会社にもある。ファーストリテイリングは業績も良くて目立っているから“標的”にされたんじゃないか……」

 多くの日本企業では「サービス残業」が“文化”として根付いているのが実態である。それはつまり、ブラック企業が出現する背景には「日本型の雇用慣行」があるということだ。

 かつて終身雇用を前提とした日本の企業社会では、新卒の「正社員」の立場をできる限り守ることが、経営陣と労働組合の共通目標だった。日本は先進国の中で最も正社員解雇の規制が強い国だ。

 それは企業と社員の間に連帯感を生むが、一方でグローバル社会の中でスピードアップする市場変化についていけなくなる。一度苦境に陥ると、新しい人材を雇おうにも既に雇った社員の立場が強く、人件費の総額を考えれば採用抑制せざるを得ない。そのハンデを、正社員のサービス残業をはじめとした長時間労働などで凌いできたという構図がある。「正社員の強さ」がブラック企業化につながるのだから皮肉である。

 脅迫的・暴力的な方法で従業員を辞めさせるブラック企業があるのは解雇規制が強いからでもあるし、若者が体を壊すまでそんな企業に勤め続けてしまうのも、一度退職して「守られる正社員」の立場を失うと、再びそれを手に入れるのは難しいからだ。人事コンサルタントの城繁幸氏は、「規制緩和で雇用慣行を変えることがブラック企業改革につながる」と言い切る。

「規制緩和によって賃下げも解雇もしやすくし、かつ国が労働時間の上限を明確に区切るなどすれば、忙しい職場は人を雇うようになり、雇用の流動性が高まる。長時間のサービス残業もなくなります。世界を見渡せば、新卒で採用した社員の半分程度が数年で辞めるのは普通です。辞めても流動性のある労働市場があれば問題はない。『我慢したら定年まで雇ってあげる』という慣行こそ改めるべき」

 雇用規制の見直しは、すでに安倍政権の産業構造改革で論議されている。

※SAPIO2013年5月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
前回のヒジ手術の時と全く異なる事情とは(時事通信フォト)
大谷翔平、ドジャース先発陣故障者続出で急かされる「二刀流復活」への懸念 投手としてじっくり調整する機会を喪失、打撃への影響を危ぶむ声も
週刊ポスト
単独公務が増えている愛子さま(2025年5月、東京・新宿区。撮影/JMPA)
【雅子さまの背中を追いかけて単独公務が増加中】愛子さまが万博訪問“詳細な日程の公開”は異例 集客につなげたい主催者側の思惑か
女性セブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン
大の里の調子がイマイチ上がってこない(時事通信フォト)
《史上最速綱取りに挑む大関・大の里》序盤の難敵は“同じミレニアム世代”の叩き上げ3世力士・王鵬「大の里へのライバル心は半端ではない」の声
週刊ポスト
連日お泊まりが報じられた赤西仁と広瀬アリス
《広瀬アリスと交際発覚》赤西仁の隠さないデートに“今は彼に夢中” 交際後にカップルで匂わせ投稿か
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎ストーカー殺人事件》「テーブルに10万円置いていきます」白井秀征容疑者を育んだ“いびつな親子関係”と目撃された“異様な執着心”「バイト先の男性客にもヤキモチ」
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《離婚するかも…と田中圭は憔悴した様子》永野芽郁との不倫疑惑に元タレント妻は“もう限界”で堪忍袋の緒が切れた
NEWSポストセブン
成田市のアパートからアマンダさんの痛いが発見された(本人インスタグラムより)
《“日本愛”投稿した翌日に…》ブラジル人女性(30)が成田空港近くのアパートで遺体で発見、近隣住民が目撃していた“度重なる警察沙汰”「よくパトカーが来ていた」
NEWSポストセブン
小室圭さんの“イクメン化”を後押しする職場環境とは…?
《眞子さんのゆったりすぎるコートにマタニティ説浮上》小室圭さんの“イクメン”化待ったなし 勤務先の育休制度は「アメリカでは破格の待遇」
NEWSポストセブン
食物繊維を生かし、健全な腸内環境を保つためには、“とある菌”の存在が必要不可欠であることが明らかになった──
アボカド、ゴボウ、キウイと「◯◯」 “腸活博士”に話を聞いた記者がどっさり買い込んだ理由は…?《食物繊維摂取基準が上がった深いワケ》
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! トランプ圧力で押し寄せる「危ない米国産食品」ほか
「週刊ポスト」本日発売! トランプ圧力で押し寄せる「危ない米国産食品」ほか
NEWSポストセブン