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ホンダN BOX開発の原点 女性目線で「自転車積めそうな軽」

 新車販売の約4割を「軽自動車」が占める時代に突入した。市場は一段と競争が激化している。2012年度の軽自動車新車販売シェアを見ると、1位がダイハツ33.1%、次いでスズキ29.7%と僅差。つば競り合いをするこの2強を脅かす大躍進を見せたのが、ホンダだ。

 2012年度の1年間に、一番売れた軽自動車はホンダの『N BOX』だった。前年度比399.2%増、23万6287台を販売する大ヒット商品になった。

 新車販売の4割を占める軽。そのユーザーは多くが女性たち。異邦人よりも遠い「日本の女性」たちは、軽自動車に何を求めているのか。ホンダの四輪R&Dセンター・浅木泰昭氏(55)の分析はこうだ。

「男は腕力があるから、自転車を車に積み込むことなんて簡単です。しかし女性はまったく違う。見た瞬間、『この床の高さじゃ積めない』と思ったら積まないのです」

 浅木氏が着目したのは、「メカ・性能」ではなく、車と人とのインターフェイス、つまり車を「どのように使いたいか」という点だった。

「女性目線で自転車が積めそうな軽自動車」が開発の原点になった。浅木氏には、そう考える根拠があったのだ。

「夜、娘が自転車を漕いで遠くから帰ってくる。妻は心配でジリジリしている。車で迎えに行くよというと、自転車を置いてくるわけにいかないでしょ、と娘が反論して喧嘩になる」

 かつて宇都宮に勤務していた浅木氏はそんなシーンをたびたび目にしていた。

「全国の地方都市ではきっと同じ問題が発生しているはず。ホンダの技術を駆使すれば、自転車と子供を一緒に乗せるという潜在的なニーズに応える商品が作れるはずだ」

 浅木氏は、ホンダの特許技術「センタータンクレイアウト」に可能性を見いだした。

「通常は後席の下にある燃料タンクを、前席の下に格納する方法です。これなら荷室の床を低くすることができる。また衝突時にもエンジンの隙間にコンプレッサーなどが潜り込む新システムを開発し、エンジンルームを思い切ってコンパクト化しました」

 地面から48cmという低い床。さらに、大人の男性が足を組んで座れる広い後席シート、子供が立ったまま着替えることのできる140㎝の室内高が実現した。「軽“最大級”の空間」の誕生だった。

 軽なのに大空間。でも、それだけに留まらない。

 スマートなボディを目指して、ウインドウとドアのデザインに「黄金比率」を採用した。座席シートの質感も徹底的にこだわった。女性のお尻に心地よい感触を追求し、ウレタンの固い層と柔らかい層を複雑に組み合わせた。

 我慢して乗る小さい車、2台目の車……そんな軽とは全く別の存在として『N BOX』は登場したのだ。

 2012年7月、シリーズ第2弾の『N BOX+』が発売され、予想を超えたある現象が起きた。

「ファミリー層にウケることは予想していましたが、想定外の人たちからたくさんの注文をいただいたんです」

 想定外とは?

「これまで軽なんて選択肢になかった男性たち。走り、質感、デザイン全てにこだわりを持っている自動車ユーザーの方々が積極的に選んでくれている。嬉しい誤算でした」

『N BOX+』は、荷物スペースがさらに広く使える仕様だ。前席までシートを折り畳めば身長190cmの人も横になれて、車中泊ができる。

 自転車のみならず、車椅子も二輪車もスロープを設置すれば簡単に運び込める。介護にも通院にもツーリングにも便利。じいちゃんばあちゃんから夫婦、幼児に赤ちゃんまで。

 日常だけでなく、非日常の「遊び」まで。「+」されたのはホンダという会社が脈々と培ってきた遊びの可能性だった。

(取材・文/山下柚実)

※SAPIO2013年8月号

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