アベノミクス効果で景気が回復しつつあるというのに、売り上げ高増加に伴い社員の賃金をあげようという機運が日本の経営者には希薄だという。草食化は若い男性だけの問題ではないと大前研一氏が警鐘を鳴らしている。
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2014年春闘では、自動車メーカーの労働組合でつくる自動車総連、大手電機メーカー労組が加盟する電機連合、鉄鋼や造船などの日本基幹産業労働組合連合会(基幹労連)といった主要労組が、5~6年ぶりにベースアップ(ベア)を経営側に統一要求するという。
2013年冬のボーナスは、日本経済新聞の調査によれば、主要34業種のうち26業種で支給額が前年を上回り、全体でも2.55%の増加となった。このため、ベアへの期待が高まり、各労組が統一要求する状況になっているわけで、エコノミストの中には、これまで日本では企業の売上高が増加した半年~1年後に賃金が増加している、などとバラ色の予測をする人もいる。
だが、本当にそうか? 私は、その法則は、もう成り立たないと思う。なぜなら、私が知っている日本企業の経営者の中に、社員にシンパシーを持って「売上高が増加したから賃金を上げてやろう」と考えている人は一人もいないからだ。
昔の経営者は、武田信玄の「人は城、人は石垣、人は堀」という言葉を企業に当てはめて社員を大事にしたものだが、今やそういう発想の経営者はほとんどいなくなった。
日本銀行が昨年12月に発表した2013年7~9月期の資金循環統計(速報)によると、民間非金融法人(事業会社)が抱える現金・預金は、9月末時点で実に224兆円に達し、リーマン・ショック直後の2008年12月末から20四半期連続で増加した。それほど余剰資金があっても、大半の企業は後腐れのない一時金を少し増やすだけで、月給は上げていないのである。
もはや労働分配率(企業が新たに生み出した付加価値のうち人件費に分配された比率。人件費÷付加価値で%表示される)を指標にしている経営者はいないと思う。労組も同様で、かつて日本の労組が純粋なファイティング・スピリットを持っていた頃の賃上げ交渉は非常にきつかった。徹夜の団交や明け方の妥結などが当たり前だった。